米国海軍大学(US Naval War College)でアジア太平洋科を率いる日系研究者トシ・ヨシハラが、豪州を代表するシンクタンクから注目、というより、いささか瞠目すべき論文を発表した。

日本から豪州へ基地を移管せよ

米原子力空母ジョージ・ワシントン、横須賀に入港

米軍横須賀基地に入港する米空母「ジョージ・ワシントン」〔AFPBB News

 横須賀、佐世保、嘉手納を、今後重要となる戦域から遠過ぎるうえ中国ミサイルの射程内にありはなはだ危険だと断じ、米海軍力の少なくとも一部を豪州に移管する必要を強く説いている。

 論争的なのは恐らくヨシハラ自身承知のことで、「非現実的である」「米国は弱いという対外イメージをかえって与えてしまう」などとする反論が既に現れた。

 それでも、日米同盟それ自体が、第1に地理的有用性を減らし、第2に戦略的耐久性を減じつつあるのだとする主張として読み替えることができ、それもペンタゴンに近い専門家の言だけに、この先あり得べき変化に関して一定程度予言的だ。

 米豪間にはいま、日米間で言う「2プラス2」の仕組みがある。2010年11月8日メルボルンで会した両国外務・国務・国防大臣長官協議は、今後米軍が豪州にプレゼンスを増していく路線を承認した。基地・施設の利用など具体策を検討する作業部会が発足し、議論を続けているという。

 これをとらえて、このところ豪州を代表する外交・安保のシンクタンクとなったロウウイ研究所(Lowy Institute)から短いペーパーとして出たのが今回取り上げようとする論文である。

米軍の世界配置を再検討中

 ヨシハラは先に Red Star over the Pacific: China's Rise and the Challenge to U.S. Maritime Strategy を著し(共著者として)、中国海軍力の増強によって米海軍の優位が挑戦にさらされつつある様を危機意識をもって描いた。執筆量は旺盛で、目下米海軍大学では目立つ論客の1人である。

 現在米政府は、米軍世界配置再検討作業(global posture review)を改めて続けている。そこでは米軍がアジアに前方展開勢力を維持する際、次の3つに適うかどうか吟味することになっているのだそうだ。ヨシハラによれば3つの検討項目とは、

(1)当該地域全体を通じてより均等な配置になっているかどうか(2)攻撃に対する耐久力、残存能力がともにあり、攻撃を受けても多様な作戦遂行能力を維持できるか(3)基地所在国政府ならびに国民にとって、当該基地の存在が政治的に受け入れられているか

 だという。ここからして既に明らかなように、三沢から嘉手納まで、在日米軍基地はどの項目にも十全には適合しない。