ソーシャルメディアで誰もが情報の選別や発信が容易にできるようになったことで、これまで、一方的に情報を流す側にいたメディアや企業は変容を迫られている。

 メディアとマーケティングの今後を読み解くために、ITジャーナリストの佐々木俊尚氏とインテグレート代表取締役CEOの藤田康人氏に語り合ってもらった。消費社会の変化について議論した「企業はソーシャルメディアの本質を理解していない」に引き続き、崩壊の危機に直面するマスメディアの現状や、未来のメディア像についての見解を紹介する。

メディアの生き死には市場原理に任せよ

藤田 マスメディアには、公共の情報を広めるソーシャルな存在価値がありますよね。今回の震災もそうですが、特に有事のときになくてはならないインフラです。佐々木さんはマスメディアの将来についてかなり悲観されていますが・・・。

佐々木俊尚氏/前田せいめい撮影ITジャーナリスト 佐々木俊尚氏

佐々木 メディアの衰退はものすごい勢いで進んでいます。それはビジネス的にも言論的にもです。唯一頑張っているのはNHKぐらい。ほかは見るも無惨です。特に震災後、それがあからさまになっている。いずれ消滅せざるを得ないと思います。

藤田 僕は最低限のインフラとしてのマスメディアは国策として守るべきではないかと思うんです。そのかわり報道のクオリティーはより高い水準を求めなければいけませんが。

 少なくとも、ネットメディアの将来像、有料なのか、広告モデルなのか、ハイブリッドなのか—―といった答えが見えてくるまで、今のメディアを残さないとカオス的な状況を招くのではないか。米国のハフィントン・ポストみたいなネットメディアが育っていない状態でテレビや新聞が崩壊したら、そのインフラをだれがどう担うべきなのでしょう。

佐々木 消滅したあとの欠落が恐ろしいからと言って、言論的に衰退したメディアを支えるのが正しいのかどうか。日本はそうやって、「なくなったら怖いから」と、バラバラになった船を一生懸命押し立てるということを、今まで散々やってきたんです。

 僕は市場原理に任せた方がいいと思います。外資の保有制限も、もう撤廃すべきだと思うし。テレビ局や新聞社を外資が買ったって、別にいいじゃないですか。メディア業界の人、特に40歳以下の人たちの多くは同じ考えです。大手新聞社の社員でさえ定年まで会社があるとは思っていない。なんでもいいから変わってくれという感じです。

新しいメデイア、新しいマネタイズモデルが誕生する

藤田 例えばネットのソーシャルメディアは、その人のリテラシーやソーシャルグラフ(ネット上に広がる人間関係)によって、手に入れられる情報が違いますよね。その点、マスメディアはだれであれ平等です。ある意味、情報格差のセーフティーネットと言える。だからこそ消滅するのを放っておくわけにはいかないと思うんです。

佐々木 そうですね。テレビも新聞もなかった中世の人は、自分の村の中で起きることしか知りませんでした。それに比べると今は、当時の村人クラスの人も、ちゃんと社会の中で起きていることを知っている。そういう意味では、大衆が底上げされている状況なんです。こういう大衆社会が今後も必要なのかも含め、最低限のセーフティーネットについては議論すべきだと思います。

 僕もマスメディアが不要だとは思っていません。多くの人に政治や経済のニュース、選挙の結果などを伝えるメディアは絶対に必要。ただ、その担い手が今のマスメディアである理由はないんです。

藤田 佐々木さんはすべてお分かりになった上で、マスメディア不要論ではなく、変化が必要であるとおっしゃっていると思います。ただ、そうではない人もいますよね。「ソーシャルメディアはすごい。マスメディアはダメ」といった二元論とか、イデオロギー的に不要論を強弁したりとか。