東日本大震災の後、新聞やテレビの取材が大規模な避難所に偏る中で、被災者がツイッターを通じて発信した情報で小さな避難所に支援物資が集まった。また、親族や友人の安否を確認するための避難者名簿共有サービスがツイッターやフェースブックを介して広がるなど、「ソーシャルメディア」がライフラインの一端を担った。
かつてはマスメディアが一方的に流す情報を受け取るだけだった一般の人たちが、自ら情報を選別・収集し、発信する存在になりつつある。一方、マスメディア広告だけでモノが売れる時代は終わり、メディア企業の経営環境は悪化している。
ウェブ上の言論などにも詳しいITジャーナリストの佐々木俊尚氏と、キシリトールブームを生み出したヒットメーカー、インテグレート代表取締役・藤田康人氏は、共に、これからの時代のキーワードは「マスではなく共感」だと言う。
2人にメディアとマーケティングの現状と今後について語ってもらった。
「モノ」を買うよりも、「共感」を求める時代
佐々木 近年、広告やマーケティングの世界で、「共感」「つながり」といったことがキーワードになっています。背景にあるのは、これまでの「記号消費」的な消費スタイルの衰退です。総中流社会が崩壊したことで、「これを持っていることがセレブリティの象徴である」みたいなことを認識してくれるエリアが縮小した。いわば物語を共有する場所がどんどん小さくなってきたわけです。
1961年兵庫県生まれ。フリージャーナリスト。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て2003年よりIT分野を中心に取材・執筆。主な著書に『電子書籍の衝撃』『2011年新聞・テレビ消滅』『キュレーションの時代』など
(撮影:前田せいめい、以下同)
一方で、例えばツイッターの「××クラスター」のような小さなクラスターが無数に生じてきました。僕は「ビオトープ」と表現していますが、そんな狭い場所でないと物語を共有する者同士がつながりを実感できないという状況がある。
藤田 細分化が進んだ結果、モノが共通言語ではなくなってきているんですね。「収入とステータスを見せるためにベンツに乗る」、といった自己表現が通用しにくくなった・・・。
佐々木 ビオトープのような共感しあえる場は自然発生的なもので、企業が作ろうとしても作れないものです。企業やメディアが心を砕くべきは、それをコントロールすることではなく、いかにサポートするか、よりよい情報提供をするかということでしょう。
藤田 今までの消費者は、企業やメディアが一方的にコントロールした情報しか手に入れられませんでした。それがWeb2.0の時代になって、情報発信もできるツールがいくつも登場した。キュレーション(情報を収集・整理して共有すること)してくれる仲間が周りにいれば、企業よりもはるかに正確な情報を持てたりします。情報のイニシアチブがようやく消費者側に移ってきたと感じますね。
能動的な情報取得が可能になったことで、何を信じるか、何を重視するかが問題になった。そこで軸になっているのが、自分が「共感」できるということなのではないかと、私は思います。
佐々木 商品を買うことではなく「共感」が第一目標になったという見方もできるでしょう。モノは「つながり」の媒介者であって、それを実感できるのであればモノなんか買わなくてもいいじゃない、という感じ。これはすごいパラダイムシフトですが、企業の側に気づいていない人が多すぎる。
私が関わっている「アイコンミーティング」という集まりなど、象徴的だと思いますよ。150人ほどいるメンバーの共通点は、あるイラストレーターにツイッターのアイコンを作ってもらったということだけです。なのにみんなで温泉に行ったりして、社会人サークルのように活動している。彼らの目的は人とつながることであって、アイコンは文字通りシンボルに過ぎないわけです。
ソーシャルメディアは「中間共同体」を見つけるツール
藤田 特に震災後、「つながり」「絆」という言葉が聞かれます。今は昔以上にそうしたことを求めるようになっているのでしょうか。