夏休みも終盤にさしかかり、世の小学生たちは宿題のラストスパートに追われている。首都圏では、難関中学を目指す数万人の児童たちも受験勉強のために塾通いを本格化させたはず。
3月の当コラムで「疲弊する塾講師の実態 過熱する中学受験、受け皿は大丈夫か」と題する記事を掲載した。この中で多くの真面目な講師たちが過酷なサービス残業を強いられていると触れた。
夏休み以降、来年2月の受験当日に向けて塾業界の勤務体系は過酷さを増す。今回は子供たちが通う塾の危うい一面、サービス残業に焦点を当てる。
営業に専念させられる塾講師たち
前回の記事では、複数の大手塾が株式公開を果たした一方で、投資家に着実な成長を続けるイメージを届けるため、顧客(生徒)数や授業数を増やさねばならないというプレッシャーにさらされていると触れた。その結果、熱血指導がウリのベテラン講師たちに過度な重圧がかかっているのだ。
熱血指導がウリの講師たちは、とにかくよく働く。様々な聞き取りを行った結果、1日当たり4~5時間の超過勤務が恒常化していることが分かった。
受験が目前に迫る秋から年末年始にかけてこの数値は激増する。繁忙期に残業が増えるのはどの業界でも当たり前だが、この業界には他と明確な違いがある。それも相当に危うい事情が潜んでいる。繁忙期に残業がかさめば、当然残業代が付く。が、塾業界の場合、「サービス残業の多さは他に例を見ない」(関係筋)のが現状だ。
具体例を見てみよう。塾講師の勤務時間は、子供たちが小学校を下校した後の夕方からがメインとなる。コアの勤務時間帯は午後1~10時前後となる。午後の早い段階では授業に用いる資料類の準備、夕方から夜にかけては本番の授業、という具合だ。
だが、表向きと実態は全く違う。「正社員講師は、コアな勤務時間内での授業準備は許されていないケースが大半」(同)だという。では、いったい何をしているのか。「営業に専念させられる」(同)ことになるのだ。
営業とはすなわち、他の塾からの優秀な生徒の引き抜き、あるいは受験適齢期を迎えた子供を持つ親への電話勧誘等のこと。実際、年頃の子供がいる拙宅にも頻繁に電話が入るし、個別訪問を受けるケースも少なくないので、「営業」の実態は理解できる。
複数の講師に、授業前のテキスト準備やテストの採点の様子を見せてもらった。受け持ちの生徒数が50人、60人ともなると、コピーやら採点作業は膨大な量になる。しかし、こうした作業、いわばメイン業務に関しては、「大手の大半が正規の勤務時間内にこなすことを暗に禁じ、講師の善意に委ねる悪しき慣習が続いている」(同)という。