勝負の世界で「超一流」と言われる人の言葉は、多くの修羅場を潜り抜けた豊富な経験に裏打ちされているだけに、味わい深く、しかも心に残る。
「会社であっても家庭であっても、なにか問題が起こったときにどうにもならなくなるのは、事前の覚悟が足りないからだ」「しっかりと覚悟さえ決めておけば、どんなことがあっても気持ちがブレたり、崩れたりすることはない」「強い『覚悟』を決めれば、なんでもできる」
連続フルイニング出場試合数の世界記録を更新中である阪神タイガースの主砲、金本知憲選手は著書『覚悟のすすめ』(角川書店)の中でこう説いている。
「覚悟」とは敢えて高い目標を掲げ、それに向け一途に突き進む強い意思である。こうと決めたら、必ず行動に移し、それを根気強く続けていく精神的な強さである。
そうした覚悟がしっかりできていたからこそ、金本選手は超一流の野球選手になり得たし、41歳になった今でも衰えることなく、ファンを熱狂させる活躍が続けられているようだ。
縮小する国内市場、海外では巨大メーカー続々誕生
経営統合交渉が明らかになったキリンホールディングスとサントリーホールディングス。この両社のトップもまた、「和製食品メジャー」というもう一段上の存在を目指して、「覚悟」を決めたようである。
キリンは食品業界首位、サントリーは2位。何れも言わずと知れた超優良企業だ。深刻な消費不況が続く中でも業績はともに右肩上がりを維持し、2008年12月期連結決算ではそろって過去最高の純利益を上げた。サントリーに至っては、長年「お荷物」と見られていたビール事業が1963年の参入以来初の黒字化を達成し、記念すべき節目の年となった。
何不自由なく・・・。そう思えた両社が将来を見据え、敢えて現状を打ち破り、ともに生きる道を選択しようとしている。その背景にあるのは、少子高齢化の進展で予想される国内市場の縮小。それと、ベルギーのビール大手インベブによる米ビール最大手アンハイザー・ブッシュの買収など、海外市場で相次ぐ巨大食品メーカーの誕生だとされる。
今後も成長を続けていくには、もはや海外市場に活路を求めるしかない。しかし、活躍の舞台を海外に移したとしても、今のままでは欧米列強に所詮太刀打ちできない。
ならば、ベストと思えるパートナーと手を組み、勝ち抜く体力をしっかり身につけた上で戦いに臨めばいい。そう両社は考えたのだろう。グローバル市場でも「勝ち組」として生き残るため、腹を括ったのである。
従業員や消費者の反発も、衆人環視下の統合交渉
とはいえ、片や三菱グループの中核企業。一方は非上場ながら、日本でウイスキーの歴史を築いてきた実力企業である。ともに伝統ある企業同士の経営統合が、そう易々と進むであろうはずがない。
むしろ、どちらかが経営難に陥っており、それを救済するための統合であれば、物事は簡単である。呑み込む方の企業がリーダーシップをとり、思うがままに進めていけばよいのだから。しかしキリンとサントリーの場合、そうもいかない。ともに主張すべきところは主張しながらも、同時に相手の意見も尊重しつつ、徐々に融合への道筋を探っていくしかない。