7月1日から東京電力と東北電力の管内で、工場など大口需要家を対象に本格的な電力使用制限が開始された。

 電力不足は中国でも同じ。筆者は過去にも中国・上海で電力制限による混乱を経験しているが、同じ節電のアプローチでも日中間ではこんなに違うのかと思わされることがしばしばだ。

「不公平」な電力使用制限に日系工場から不満の声

 2003~2005年、中国の華東地区(上海市、山東省、浙江省、江蘇省など)に駐在していた日本人は深刻な電力不足に頭を悩ましていた。最も電力不足が深刻だと言われた浙江省では、2003年だけで35万回も停電があったという。2004年は華東地区で1700万キロワットが不足し、多くの工場が影響を受けた。

 突然の通知による電力供給制限もしょっちゅうで、当局が開催する事情説明会に血相を変えて駆けつける日系工場社員の姿も多数見られた。当局側は、2003年からの電力不足について、「経済成長という要因もあるが、気温が高くなっていることが問題だ。年間、月間、日間における電力需給のアンバランスが起きている」と説明していた。

 上海市政府はその対策として、「一堅持三確保」を最大の目標に掲げていた。「一堅持」とは「制限はするが、停電はしない」という意味。「三確保」は「生活用電力」「重点産業電力」「都市生活の電力」の3つに対して影響を出さないということを意味する。電力供給について、まずは「人民の一般生活」を優先し保護するという立脚点に立った政策を打ち出した。

 そして、停電を起こさないための策として、工場に生産シフトが要求された。「夏季の生産を春秋に分散」「1週目に生産したら、2週目は休み」といった操業日の変更や操業日削減のほか、「開四停三」(4日間電力供給したら、3日間は停止)もあった。

 また、「夜間シフト」もあった。現地企業1700社を指定し、昼間の生産を夜中12時~翌朝8時までの間にシフトさせるものだ。「ブラックリスト」に掲載された現地企業はとんだとばっちりを受けたが、政府には「重点産業は保護する」という明確なポリシーがあり、日系企業への影響は回避された。日本に見られる「国民の皆さんは一律平等に節電して下さい」という平等主義とはまったくの対極である。

 上海で電力供給制限の対象企業を決める際は、「連続生産を必要とする企業、市場が要求する製品を生産する企業、環境保護に熱心な企業、そして日中合資企業は、電力供給制限を行わない」という原則が存在した。