「ぼったくりバーみたい」
地方行財政に全く関心のない人でも、2009年3月に政府の地方分権改革推進委員会に招かれた大阪府の橋下徹知事が放ったこの一言には、聞き覚えがあるはずだ。
ほろ酔い加減のサラリーマンを甘い言葉でバーに連れ込み、泥酔させた上で帰り際に法外な請求書を突き付け、カネを巻き上げる・・・。
橋下知事の指摘する、いかがわしい「バー」とは何なのか。その正体は、国が直轄で行う道路や河川などの整備費と維持管理費の一部を、地元の都道府県と政令指定都市が負担する直轄事業負担金制度。国が自治体に提示する「請求書」に積算根拠や内訳が書かれておらず、「ぼったくりバー」とそっくりというわけだ。
負担金制度の歴史は古い。2009年4月21日の衆院総務委員会で、自民党の福井照議員が「道路ですと大正11(1922)年からこの直轄事業負担金というのはございます。河川事業でも明治29(1896)年・・・」と紹介している。
当時の都道府県知事は内務省がキャリア官僚を送り込む「官選」だから、国と地方は主従関係にあった。国が地方に有無を言わせず、道路や河川の整備で恩恵を受ける自治体に対し、費用の一部を押し付ける仕組みを考えたのだ。
機関委任事務の廃止後、国と地方は「対等」なのに・・・
1990年代の第1次地方分権改革で国の仕事を自治体に代行させる「機関委任事務」が廃止され、国と地方の関係は「対等」に変わったはずだ。
にもかかわらず、それ以降も「負担金廃止」を声高に叫ぶ知事は現れなかった。国の請求書通りに自治体が支払いを続けてきたのは、「文句を言ったら、地元に必要な直轄事業を減らされるかもしれない」と不安を覚えたからだろう。その結果、負担割合の変更などの微修正はあったものの、直轄負担金制度はほぼ当時の仕組みのまま温存されてきた。
その負担割合は道路法や河川法などで決まっており、道路や河川の場合は整備費の3分の1、維持管理費の45%になる。全国知事会によると、都道府県の2009年度予算での負担金は、整備費分8759億円、維持管理費分1501億円に上り、総額は1兆260億円に達する。
地方財政が厳しさを増し、自治体は自前の財源で行う単独公共事業を減らしているのに、直轄負担金の総額はほとんど変わらない。今や、自治体財政の足かせになっているのだ。
こうした中で飛び出したのが、橋下知事の「ぼったくり」発言。これをきっかけに、地方の負担金制度に対する不満が噴出した。制度の見直し、中でも不公平感の強い維持管理費負担金を2010年度から廃止するよう求める大合唱が始まったのだ。
「国から補助金をもらって自治体が造った県道の維持管理に国は一銭も出さないのに、国が造った国道の維持管理費を自治体に負担させるのは納得がいかない」。全国知事会は、理不尽な制度に憤りをあらわにしている。
国交省が自治体に脅し? 総務省は「大きなお世話」
自治体全体の予算と言える2009年度の「地方財政計画」で、直轄負担金がどう位置付けられているのか見てみよう。
地財計画の歳出は給与関係経費、一般行政経費、投資的経費など「基礎的な財政需要」(総務省幹部)で構成され、総額は約83兆円。直轄負担金(地財計画ベースでは1兆323億円)は全額、投資的経費に含まれている。