今年に入ってからの日本と米国の2年物国債利回りを比較してみると、日本では非常に安定して推移してきたことが分かる。
具体的には、昨年末(12月30日)時点で0.365%になっていた日本の2年債利回りは、1月に0.345%まで低下。2月上旬に0.440%、4月上旬に0.460%まで上昇する場面があったものの、上昇してもこの程度まで。6月下旬以降は金利低下が加速した。7月1日にロンバート金利の水準である0.3%を割り込み、3日に0.250%まで、9日には0.245%まで、2年債利回りは低下した。年初来の金利変動幅は、0.215%という小ささである。
この間、日銀による利上げ観測めいた話が浮上するようなことは一切なく、日銀の金融政策についての市場の見方は非常に安定していた。むしろ、現行の年0.1%水準の翌日物金利誘導目標が長引くという読みが浸透するにつれて、一種の「時間軸」効果から、2年債利回りは低下余地の限界を模索する動きになった。
一方、昨年末(12月31日)時点で0.78%になっていた米国の2年債利回りは、1月中旬には0.68%に下がる場面もあったが、2月上旬になると1%台に上昇。そこからしばらくは0.8~1.0 %台でのもみ合いが続いた。動きが出たのは6月上旬。米5月雇用統計を材料に年内利上げ観測が急浮上すると、5日に1.30%、8日に1.43%まで、米2年債利回りは急上昇することになった。しかしその後、早期利上げは困難という見方が、米6月雇用統計の厳しい内容などをもとにして再度強まることになり、金利は低下。
7月2日に1%割れとなり、8日には一時0.90%まで下がった。年初来の金利変動幅は0.75 %で、日本の約3.5倍である。米2年債はイールドカーブの形状をにらんだ取引に使われやすいため、売買が頻繁で振れが大きくなりやすいということは言えるのだろうが、それ以上に年初来の米2年物金利変動幅を大きくしたのはやはり、米連邦準備理事会(FRB)による早期利上げ観測が浮上したことであった。
それではなぜ、米国と同様に景気指標がある程度改善してきた(あるいは鉱工業生産のように米国に先んじて改善してきた主要指標がある)にもかかわらず、日本の金融市場では早期利上げ観測がまったく浮上してこなかったのだろうか。
日銀の当局者に言わせると、その理由は「市場との対話」が非常にうまくいっているからだ、ということになるのだろう。筆者としてもそれを否定するつもりはまったくないのだが、ここではやや角度を変えて、以下3つのポイントに沿って、理由を説明してみたい。
(1)バブル崩壊・不良債権問題・量的緩和についての「日本の経験」が浸透していること
1990年バブル崩壊とその後の不良債権処理問題での長きにわたる苦闘、日銀がデフレ対応で導入・強化した量的緩和がインフレには結び付かなかったことなど、「日本の経験」は、やはり貴重である。日本の市場参加者は、自らの実体験から裏付けを得つつ、構造不況下での景気回復力の弱さを見透かした上で、そうした経験がない米欧の市場参加者に比べて、冷静に行動しているように見える。大きなバブルが崩壊した後にはそう簡単に景気の本格回復が訪れないこと、仮に中央銀行のバランスシートが膨張していてもそう簡単にはインフレにならないことを、日本の市場参加者は熟知している。したがって、時期尚早の日銀利上げ観測が浮上してこない。