キューバーのトリニダー。今、ここ!

 「独立の気力なき者は必ず人に依頼す。人に依頼するものは必ず人を恐る。人を恐るる者は必ず人に諂(へつら)ふものなり」とは福沢諭吉翁の言葉である。

 政治、経済、文化に至るまで、老いも若きも米国依存が蔓延している日本とは異なり、キューバは現在も米国にへつらうことなく、「勝利に向かって限りない前進を。祖国か、さもなくば死か。限りない革命的情熱を込めて」と叫んだ革命戦士、チェ・ゲバラの精神が今も見事に彩られ、体現されている。

ビーチを歩く神々しい女たち

 キューバは米国のフロリダ半島の南東に位置する社会主義国家である。冷戦時代は米国の喉元に突きつけた匕首(あいくち)となって、その存在感を世界に誇示していた。現在でも米国との国交はなく、独自路線を歩んでいる。国家が厳しく国全体を統制しており、治安の良さは中南米一と言われるほど犯罪が少ない。

 キューバの魅力として挙げられるのはダンスや音楽だけではない。特に旅行者を魅了するのはカリブ海に面したビーチの美しさである。夏の朝、私は宿泊している宿の前で年代物の大きな青いキャデラックのタクシーを拾い、近くのラボカビーチへと向かった。ビーチは地元の海水浴客一色。外国人の観光客はまったく見られない。

 ここはまさに楽園だ。抜けるような青空の下、白い浜辺にはまぶしい水着を着たティーンエイジャーが集い、熱いビーチは生命力に満ちあふれている。ティーンエイジャーだけでない。まだあどけない少女や、お母さんまでもが、背筋をピンと張って歩いている姿は、神々しいくらい見事な女ぶりで、妍(けん)を競っている。

 このビーチには無料で借りられる椰子の葉のパラソルがあるが、チェアーがないうえ、数が少ない。日差しが強い浜に黄色人種の色白肌が長時間たたずむのは少々つらい。

スキューバダイビングで高級リゾート気分を味わう

 トリニダードの浜は地元民で賑わうラボカビーチ以外に、観光客や金持ちキューバ人御用達のプライヤアンコンビーチという美しい浜がある。こちらは白い砂浜にパラソルとデッキチェアーが並び、ホビーキャット(小型の二艘ヨット)やスキューバダイビング、フィッシングなどレクリエーションも整い、高級なリゾート気分が堪能できる。

私はこの日、アニータとスキューバダイビングに興じる約束をしていた。彼女の宿泊するホスタル371の大きな扉の前に立ち、呼び出し用の真鍮製ノッカーで扉を2回ノックすると、ピンクの薄い木綿の服を着た白人の女性が顔を出した。「エスター チーノ アミーゴ?」(中国人の友達いる?)と聞くと、笑顔で「入って!」という。