内閣府と総務省、文部科学省、経済産業省、日本経団連、日本学術会議が主催する「第8回産学官連携推進会議」が6月20日から京都の国立京都国際会館で開かれる。今回のテーマは「オープンイノベーション型の産学官連携による新たな挑戦」。「技術大国から技術立国へ」をキーワードに、産学官のリーダーが一堂に会して新しい産業基盤の構築について話し合う。その会議でもキーノートスピーカーを務める東京大学の妹尾堅一郎・特任教授にイノベーションのあり方について聞いた。

「日本はお先真っ暗だ」

 金融危機が引き金になって世界が大不況の極みに落ち、今改めてイノベーションの重要さが認識されるようになっています。その点、技術力が豊かな日本は、この閉塞状態を打ち破れる国の1つではないかという気がします。妹尾先生はどうお考えでしょうか。

妹尾堅一郎・東京大学特任教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、大手化学メーカー勤務。その後、英国立ランカスター大学経営大学院システム・情報経営学博士課程修了。産能大学経営情報学部助教授、慶應義塾大学助教授、慶應丸の内シティキャンパス初代校長、同大学大学院政策・メディア研究科教授を経て、2003年東京大学先端科学技術研究センター特任教授。現在は東京大学・総括プロジェクト機構知的資産経営総括寄附講座特任教授。秋葉原再開発のプロデューサーとして「先端技術テーマパーク構想」を推進中

妹尾 ご期待に沿えないお答えになるかもしれませんが、私は日本の未来は真っ暗だと思っています。世界は大きな分岐点を迎えています。その時、現時点でいくら技術力が高くてもあまり意味はありません。それよりも、これからの戦略をどう描いているのか、そのうえで何に力を入れるべきかをきちんと決めなければなりません。その戦略が日本には全く欠けているからです。

 例を挙げましょう。日本はある意味、自動車産業立国になっていると思います。しかし、私はあと15年以内に自動車産業そのものが大きな地殻変動に見舞われ、現在の自動車メーカーの技術基盤は根底から崩れると見ています。

 3万点を超える部品を繊細に組み合わせて作っている自動車が、いくつかのモジュールをカセット的にはめ込み、簡単に誰にでも作れるような時代が来ると思います。自動車の動力源はエンジンから電気モーターに替わるでしょう。大がかりな自動車組み立て工場は必要なくなり、秋葉原で自動車が生産される時代が来ると思います。

 高い開発力と生産技術力を持つトヨタ自動車とホンダは、ハイブリッド車で世界を大きくリードしています。ハイブリッド車はむしろ、ガソリンエンジン車以上に複雑な設計と組み立てが必要ですが、先生はハイブリッド車の時代はそう長く続かないと見ているわけですね。

ハイブリッド車の普及は電気自動車時代の到来を告げる

妹尾 そうです。ハイブリッド車は明らかに「つなぎの技術」です。パワートレインがエンジンから電気モーターに替わる過渡的な技術なのです。電気自動車の時代はもう目の前に来ていると思います。

 ハイブリッド車が本格的な普及を始めたということは、実は電気自動車の時代が来たことの証明なのです。ハイブリッド車はガソリンエンジンと共に電気モーターでも走ります。つまりトヨタやホンダの取り組みは、電気自動車の技術と性能を一気に向上させ、電気自動車の時代を引き寄せたと言えるのです。

 自動車メーカーのライバルは別の自動車メーカーではなくなり、電機メーカーになります。産業構造が一変するわけです。日本の自動車メーカーが強かったのは、究極まで磨き上げたエンジン技術を自社で持っているからでした。しかし、それがモーターに替われば、極端な話、誰にでも自動車が作れるようになるのです。