混乱する政局の中で、緊急性のまったくない法案が焦点になってきた。菅直人首相は、6月15日に開かれた「再生可能エネルギー促進法」(再生エネ法)の早期制定を求める勉強会で「国会には、菅の顔をもう見たくないという人が結構たくさんいる。本当に見たくないのか! それなら、この法案を早く通した方がいい。その作戦でいきます」と述べた。
その後、早期退陣を求める民主党幹部との協議でも、再生エネ法の成立を退陣の条件とし、国会が混乱を続けている。まるで首相としての政治生命を再生エネ法に賭けるかのような話だが、この法案はそれほど重要なものだろうか?
固定価格買い取りはソフトバンクへの利益誘導
再生エネ法案は3月11日の午前、震災の直前に閣議決定されたもので、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)の「固定価格買い取り」を電力会社に義務づける。
今は家庭用の太陽電池を対象にして余剰電力の買い取りを義務づけているのだが、今回の法案は全量買い取りを義務づけるのが特徴だ。
これによって業務用の発電所の電力も、すべて電力会社が買い取らなければならない。買い取り価格は、太陽光は現在42円/キロワット時。これは原発などの発電単価の4倍以上なので、電力会社はその費用を電気料金に転嫁できる。2012年度から実施し、料金への転嫁幅は各電力会社で均等化することになっている。
しかし法案の審議は震災で遅れ、3カ月以上たっても審議入りできない。自民・公明両党が反対し、与党内でも消極論が強いためたが、ここにきて首相が強い意欲を示し始めた。
その背景には、首相を支援するソフトバンクの孫正義社長の存在がある。
6月15日の勉強会でも、孫氏は「首相の粘りはすごい」と賞賛した。それは、彼の始めようとしている「自然エネルギー協議会」による太陽光発電がビジネスとして成立するためには、再生エネ法の成立が不可欠だからである。
「メガソーラー」と呼ばれる大型の太陽光発電所でも、発電単価は30~40円程度。そのままではこの電力を使う電力会社はないが、必ず42円/キロワット時で買い取ってもらえるなら、それ以下のコストで発電できれば確実にもうかる。
孫氏は5月25日に「協議会」を発表する前日に首相と会談し、再生エネ法の成立を強く要請したと言われる。首相もそれ以後、急に「自然エネルギーの普及が私の宿願だった」と言い始めた。
特定の企業への利益誘導を一国の首相がこのようにあからさまに行うことは、先進国では例を見ない。