ロシアがBRICsの1つに加えられて以来、ロシア株式市場への関心も高まりつつある。 株式市場への投資といえば、まず思い浮かぶのはガスプロム、ルクオイル、ロスネフチなどのようなエネルギー資源関連企業だろう。
確かにロシア株式市場は主要ベンチマーク指数構成銘柄の約6割がエネルギー資源関連銘柄で占められており、 そのいくつかは世界的に見ても石油または天然ガス分野における巨大企業である。
一方、エネルギー資源以外のセクターは重視されず、投資の対象から外されてしまうケースが多い。筆者はこれからの連載で、日本の投資家のみならずビジネスパーソンにも十分知られていないロシアの産業セクターについて取り上げてみたい。
第1回は電力セクターを取り上げる。
2008年に完了した電力独占企業「ロシア統一電力システム(UES)」の再編・民営化の影響、 そして、再編の結果誕生した地方電力会社が抱える問題、 さらには足元の世界的な金融危機の影響についても考えてみたい。
1.ロシア電力市場の現状
ロシアは世界人口の2.8%、地表面積の12.8%を占めるのみならず、天然ガス・石炭・石油などのエネルギー資源を豊富に保有、従って電力産業が発展する可能性が高い国である。 発電方式別に見ると、石油・天然ガスを燃料に用いた火力発電の割合が圧倒的に高く(51%)、石炭火力(19%)、水力・原子力(それぞれ15%)がこれに次いでいる。
ロシアの電力セクター改革が始まったのは2001年だが、 改革の成果と昨年前半までの急速な経済発展とが相まって、電力生産量は改革が始まって以来のピークとなった。2007年の生産は1兆148億7000kW/h(前年比1.9%増)、それに続いた2008年上期も絶好調、金融危機前までの2008年1~11月の暫定的なデータを見ると電力生産量は9277億kW/h(前年同期比プラス3.4%)である。
しかし、昨年秋の世界金融危機と、これに伴う2008年後半の景気後退はロシア国内の鉱工業生産を急激に縮小させた。危機以前には電力の主な需要者であったロシアの巨大企業、例えば世界最大のアルミ精錬会社ルサール、鉄鋼・原料炭メーカーのメチェル、鋼管の最大手TMK、製鉄大手ノヴォリペツク製鉄などが相次いで電力消費を削減した。