4月下旬、ロシアの映画興行でトップに立った作品は、4月23日から公開されている『収容所惑星2』(フョードル・ボンダルチュク監督)。正月興行でトップを走った国産映画『収容所惑星1』の続編だ。

4月の興行収入でトップに立つ『収容所惑星2』

 この映画は、ストルガツキー兄弟による同名小説を原作としている。ストルガツキー兄弟は、ソ連を代表するSF作家。長らくアルカージーとボリスの兄弟コンビで作品を発表していたが、1991年に兄のアルカージーが亡くなり、いまはボリスが単独で活動している。

 今やロシアSF界の長老となっているが、ソ連時代にはしばしば作品が発禁処分となり、反体制の「異論派」だけでなく、広くインテリ層に支持を受けてきた。

 ソ連のペレストロイカで、作品が解禁され、自由に活動ができるようになった頃からは、後進のSF作家育成にも尽力した。その意味では、ロシアSF文学の父のような、尊敬を受ける存在である。

ソ連に生きる不条理を哲学的な深みを持つ作品に昇華

 ストルガツキー兄弟は、「ソ連社会に生きる」ということの不条理を、哲学的な深みにまで突き詰め、作品に昇華させた。その意味では、逆説的ではあるが、非常に「ソビエト的」な作家だと言える。

 そのような作家の作品が今も支持されて広く読まれ、映画化され、観客の一定の支持を受けるというところに、ソビエト文化の根深さが垣間見える。

 ロシアでは現在、ソ連を「過去」として葬り去ろうとしたり、忘れてしまったりする風潮もなくはない。そもそもソ連時代を生きたことのない世代が、いよいよ社会人となり始めている。

 にもかかわらずソ連文化は陰に陽に現代文化の中に息づいている。不況に転じた今、ソ連文化の最良のものが持っていた「批判性」に、再び注目が集まっているとも言えるかもしれない。

 例えば、映画『収容所惑星』では、いわゆる「悪役」の立場の人々が、ナチス風の服装で登場する。これなど、実にソビエト映画的な処理だと言えよう。ただし、「ハリウッド映画風ナチス」に見えなくもないところが、現代映画なのではあるが。