光ファイバー網普及率89.5%、利用可能世帯4700万・・・。

 日本は世界で最もブロードバンドのインフラが整備された国だ。しかも、料金の安さも世界一。それにもかかわらず、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが3月発表した情報通信分野の国際競争力ランキングによると、日本は第17位に留まった。

 その最大の理由は、「官」にある。「行政のネット利用」34位、「オンライン行政手続きの普及」51位と大きく立ち遅れた。グローバル競争が激しくなる中、日本の国際競争力を引き上げていく上で、電子行政の実現は喫緊の課題と言えよう。(本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解です)

 電子政府化が進んだ韓国では、政府の行政安全部が運営する「行政情報共同利用センター」が42種類もの行政情報を提供する。住民登録謄本、地方税支払証明書など様々な公文書を、ネット経由で取得した上で自宅のプリンターで印刷できる。証明書には2次元バーコードが印刷され、原本の記載情報が埋め込まれている。偽造は難しく、セキュリティーに配慮されている。

 もちろん日本でも、電子政府の取り組みは推進中だ。しかし残念ながら、今のところ私たちに利便性が高まったという実感はほとんどない。そこで、「霞が関クラウド構想」が登場する。

 4月27日、政府は総額15兆4000億円の2009年度補正予算案を臨時閣議で決定した。その中には、「霞が関クラウド」の実現に向けた総額200億円の予算も含まれ、2015年のフル稼働を目指して研究開発や実証実験が本格的に始まる。

 これまで、政府の各機関は別々にコンピューターシステムを構築してきた。これらをクラウドコンピューティング技術で統合すると、システムの効率利用によって電子政府関連経費(年間約6000億円)を3割削減できる。霞が関クラウドは、政府の「無駄」排除に大きな効果を上げるだろう。

拡大するクラウドコンピューティング、高まるプライバシー侵害の危険性

「クラウド」で中央省庁の壁を取り払う〔AFPBB News

 霞が関クラウドの真のメリットとは何か。それは政府の保有する情報を連携させることにある。企業や個人が行政機関への申請手続きを行う場合、添付書類の実に約7割は他の行政機関が保有しているものだと言われる。

 霞が関クラウドで各機関のデータ連携が実現すれば、A省に提出した書類をB省からも参照可能になり、申請者がB省に同じ書類を提出する手間が省ける。これだけでも、民間企業の経費節減効果は年700億円に上る計算だ。

引っ越し手続き即完了、年金配送ミス撲滅

 霞が関クラウドと同時に実現を目指す「国民電子私書箱」を活用すれば、日常生活の利便性は格段とアップするだろう。

 進学、結婚、新居購入・・・。ワクワク気分の引っ越しなのに、手続きの煩雑さに辟易した経験は、誰にでもあるだろう。住民票の転出入、自動車免許証書き換え、子供の転入学など、最大26もの手続きが必要となる。

 そこで、国民一人ひとりに専用アカウント付きの「国民電子私書箱」を持ってもらう。そうすれば、クラウドで結ぶ行政機関ネットワークにアクセスし、新旧の住所を入力するだけで、瞬時に各種手続きを終えられるはずだ。

 英国には、官民連携のポータルサイト “I am moving.com” がある。このサイトにアクセスして転居先を入力すれば、パスポートや運転免許証、電気、ガス、水道、金融機関、クレジットカード、保険などの住所変更を一括で行える。年間400万件の引っ越しのうち、5~10%がこのサイトを利用しているという。

 専用アカウントができれば、年金記録の確認も簡単。「ねんきん特別便」の印刷ミスや配達トラブルもなくなり、国民の安心感は高まる。確定申告の場合は、税務署から電子私書箱に送信される申告ドラフトの内容を確認の上、ワンクリックすれば瞬時に申告完了となるだろう。既に、スウェーデンなどでは実現済みのサービスだ。