米中軍事交流が再開された。具体的には、中国人民解放軍の陳炳徳総参謀長の米国訪問である。この訪米については、JBpressでも宮家邦彦氏のコラムをはじめ、いくつかの解説がなされているが、その続報のつもりで総括をしておこう。日本の一部メディアの誤った見方を正す意味も込めてである。
日本の大手メディアのほとんどはこの中国軍総参謀長訪米について、米中両軍が海賊対策のための合同演習の実施を合意したことぐらいしか報じなかった。一部ではその「合意」だけを拡大して、「やはり米中G2時代の始まりか」という観測さえ出た。
ところが現実には、今回の米中軍事交流は合意や協力よりも、両国の軍部の間にある不一致や対立の諸点を鮮明に浮かび上がらせることになったのである。
米中両軍は「協力を強化」するのか?
陳総参謀長は5月15日夜、ワシントン入りして、17日に公式歓迎式典に臨んだ。中国人民軍の制服のトップである総参謀長の米国訪問は7年ぶりだった。米国の台湾への武器輸出などに中国が反発して中断されていた米中軍事交流が、フルに再開した形となったわけだ。
受け入れる側の米国はマイケル・マレン米軍統合参謀本部議長が中心となり、17日に国防総省で陳将軍との会談に臨んだ。
両軍首脳はこの会談直後に共同で記者会見を開くと発表し、多数の記者たちが会見場で待ちまえていた。だが、予定時間の直前に会見の延期が告げられた。会談が長引いていて会見ができず、翌日に延期するという発表だった。この唐突な延期というのも、奇妙な話ではあった。
陳総参謀長は米国への到着時に、声明を出していた。「この訪問は中米軍事関係の回復と好転を前提とし、相互の尊重と互恵に基づく新たな関係の構築を意味する」という内容だった。
米側でもマレン議長が、今回の陳氏の訪米が「米中両軍の協力と相互理解を深める」と強調していた。そして1日遅れで5月18日に開かれた共同記者会見でも、マレン議長はしきりに相互の「協力」や「理解」を力説した。さらに、米中両軍が2012年には「人道、災害の救済作戦や海賊対策の合同演習を、ソマリア沖のアデン湾で実施する」という合意内容も発表した。