ワシントンで24日に開催されたG7は、各国当局が行ってきた政策総動員の効果もあって景気回復が年内に始まるだろうという、従来に比べ楽観的な見通しを、共同声明に次のように明記した(財務省HPの邦訳から引用)。

 「世界の様相は、つい数年前までの力強い成長、新興市場国への資本フローの急速な拡大、貿易の大幅な拡大の時期から、現在の景気後退、レバレッジの減少及び貿易の縮小に特徴付けられる時期へと一変した」
 「我々は、成長を支え、金融システムの信認と信用供給の流れを回復するため、断固として行動してきた」
 「最近のデータには、我々の経済の景気後退速度の鈍化やいくらかの安定化の兆候を示すものも出てきている(Recent data suggest that the pace of decline in our economies has slowed and some signs of stabilization are emerging.)。経済見通しは引き続き弱い中、経済活動は今後本年内に回復を開始するであろうが、下方リスクは継続している(Economic activity should begin to recover later this year amid a continued weakoutlook, and downside risks persist.)」

 筆者は、このようなG7共同声明の表現を一読して、今回の議長国である米国の2人、ガイトナー財務長官とバーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長が会合前に示していた認識と重なっている印象を強く持った。ガイトナー長官は22日に行った講演で、米国人の消費に依存していないバランスのとれた回復・拡大を各国は実現していかなければならないとした上で、「勇気づけられる兆候がある。しかしそれが進んでいくには時間が必要で、われわれはまだ重大なリスクと難局に直面している」と発言。また、バーナンキ議長は14日の講演で、「われわれは最近、例えば住宅販売、住宅建設、新車販売を含む消費支出といった統計で、経済活動の鋭角的な減少が減速しつつあるかもしれない暫定的な兆候を見ている。経済活動の安定(aleveling out)は、回復に向けた第一歩だ」と述べていた。

 報道によると、G7の出席者は「明るい兆しを盛り込む」との方針では一致したが、肝心の表現は容易には定まらなかったという(4月26日 毎日新聞)。会議では欧州各国の代表から「年内の回復基調入りは困難」「来年も低成長にとどまる可能性がある」と厳しい発言が相次いだ(同)。バーナンキ議長は景気の落ち込みが鈍化している兆候が見られると熱心に説明(4月26日 産経新聞)。欧州諸国は米国よりも慎重な見方だったが、「結局声明は米国の認識をほぼ全面的にくみ取る形となった」「大型景気対策など就任以来の成果を強調したい米オバマ政権の政治的な思惑がちらつく」という(同)。そういえば、オバマ政権は間もなく発足から100日という1つの節目を迎えることになるので、記者会見が設定されている。

 与謝野馨財務・金融・経済財政相はG7後の会見で、「最悪のところから、もしかしたら脱したかもしれないということを間接的に表現している」「(共同声明は)景気後退はしているが、スピードは鈍化していると非常に消極的な言い方をしている。安定化しているかな、という疑問符付きの表現だ」と述べた(4月24日 ブルームバーグ)。景気回復見通しについては、欧州諸国と同様、日本政府も自信を持っているわけではないことがよく分かる。

 また、白川方明日銀総裁は会見で、「今回のG7会合そのものでデフレのことが議論になったわけではない」と発言。次に控える大きなテーマであるデフレの問題については、まったく議論が行われなかったことを明らかにした。ちなみに白川総裁はG7前日の講演で、「偽りの夜明け(false dawn)」に警告を発していた。

 オバマ政権には、支持率を維持して政治的な求心力を高く保っておくためにも、経済政策で一定の成果が挙がったことを、そろそろアピールせざるを得ない面がある。だが同政権は実際には、「残存戦力の低下」ゆえに「持久戦」を行うにとどまっており、急転直下の景気本格回復や金融システム不安の抜本的解消は望むべくもない。

 4月2日のG20金融サミットで議長国を務めた英国では、財政事情の急速な悪化ゆえに、緊縮措置を2009年度予算案に盛り込まざるを得なかった(『英予算案「財政出動の限界」』参照)。米国以外の国でも財政出動の余力がなくなってきており、日本の財務省幹部からは「弾を撃ち尽くした状態」という形容がなされている(4月26日 毎日新聞)。

 世界経済の先行きは、決して楽観できるものではない。筆者は引き続き、内外長期金利の低下を予想している。