筆者は世界経済について、これまでもお伝えしてきたように、不可逆的な大きな構造変化が生じたという問題意識を持っている。住宅とクレジットという2つの大きなバブルが連鎖的に崩壊したことをきっかけに、1992年頃から膨らみ続けてきた米家計の過剰消費が一気に逆回転し、削ぎ落としプロセス入り。米国にぶら下がって浮揚していた世界の需要レベルは、あたかも床が抜けたかのように大幅に下方シフトしており、「供給サイドのダウンサイジング」という、次の厳しいプロセスが進行しつつある(『企業の期待成長率「腰折れ」』参照)。

 そうした中で、市場で出てきやすい楽観論のパターンは、主に、(1)在庫調整一巡による自律的な景気底入れ期待、(2)4兆元の景気刺激策を発表した中国経済への「救世主」期待、(3)G20による財政出動の効果発現期待、の3つだろう。これらを足場に、来年にかけての株価は何度か、上昇余地を模索する動きを見せることだろう。

 しかし筆者は、(1)については「日本の経験(教訓)」に沿って、テクニカルな景気の谷がつくかどうかよりも、その後の景気回復過程が持続性や力強さを持ちにくいこと(分かりやすく言うと、景気の「フリーフォール」が止まっても、L字型の横棒部分が蛇がうねるような形状になるような景気のパスを想定すべきこと)に、注意を喚起してきた。

 (2)についても、中国もまたグローバル経済の枠組みの中にあることを念頭に、慎重な見方を提示。中国当局が本当に自国経済の先行きに自信を持てたかどうかを探る上では、人民元の対ドル相場の動きに注目することが有用ではないかという指摘を行ってきた(「中国GDPをめぐる混乱」参照)。

 そして(3)については、財政出動の効果は各国の景気指標の一部を改善させる効果をすでに見せているし、今後もそうした動きが増えてくることが十分予想されるものの、将来期待される成長率を持ち上げるような効果を持たない「一時しのぎ」の手段に終わってしまうリスクが高いことを指摘。特に日本の場合は、人口動態ゆえに国内需要が「地盤沈下」的縮小均衡を続けていることから、大型財政出動が最終的には「需要の先食い」「負担の先送り」に終わってしまうリスクが大きいのではないかという問題提起を行ってきた。また、米オバマ政権の景気刺激策および金融安定化策の発動状況からみて、同国の財政政策はすでに発動の限界点を迎えつつあるのではないかという見方を提示してきた。

 協調財政出動の成果を共同声明で誇示した、4月2日のロンドンG20金融サミット。議長国を務めた英国で22日、ダーリング財務相が明らかにした2009年度予算案の内容は、そうした筆者の「財政出動はもはや限界に近い」という見方を裏付けるものになったと考えている。

 今回の英予算案では、明らかに無理が生じている。