(英エコノミスト誌 2025年10月11日号)
トランプ大統領の指示を受けてメキシコ国境に設置した壁に黒色の塗料を塗るクリスティ・ノーム国土安全保障長官(8月19日、提供:Tia Dufour/Cbp/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)
貿易・移民の制限による痛みを永遠に先送りすることは不可能だ。
レンガを一つひとつ積み上げ、ドナルド・トランプ米大統領が世界最大の経済の周りに壁を築いている。
世界中の国に対する関税障壁が引き上げられると、跳ね橋も釣り上げられ、移住者が米国に入るのが難しくなっている。
大統領は米国を、外国の侵入を許さない要塞に変えたがっている。
実際、米国経済を世界の羨望の的に押し上げるのに寄与したモノや人財からこの国を切り離している。
すでにそのダメージは顕在化し始めている。ひとたび傷ついてしまったら、すぐには元に戻せない。
米国経済は「解放の日」以降も底堅さを見せているが・・・
投資家たちの見方は異なる。
トランプ氏が貿易相手国に一斉に関税を課したいわゆる「解放の日」から6カ月の間に、金融市場はパニックから歓喜へと大きく振れた。
それ以外の分野では、反応はまちまちだ。
インフレ率はわずかな上昇にとどまっている。関税による痛みの大半を米国の輸入業者が吸収しているからだ。
移民の流入が止まったせいで雇用は伸び悩んでいるものの、2025年の経済成長率は恐らく1.5~2%になるだろう。
この景気の底堅さはある程度、関税率の平均が当初恐れられたほど高くないことによって説明できる。税率が引き下げられたり、貿易の流れが素早く適応したりしているためだ。
今年4月の時点で、アナリストは米国の平均関税率が28%に達すると警鐘を鳴らしていた。
しかし、8月までに国境で徴収された関税収入は、税率がわずか11%であることを示している。
米国に高率な報復関税を課した国が中国のほかにほとんどなかったことも寄与している。
英国、日本、欧州連合(EU)といった経済大国・地域は対抗関税を米国に課すことなく、トランプ氏が提案した関税を引き下げるディール(取引)をまとめた。
大統領は運にも恵まれている。
米国は今、人工知能(AI)に対する楽観論を背景とする驚異的な株式ブームの真っ最中だ。S&P500種株価指数は4月の底値から40%も上昇している。
景気循環調整後のPER(株価収益率)は40倍を超えており、ドットコム・バブルの時期の記録に迫るような水準に達している。
おかげで裕福な投資家は消費を増やしており、それが経済成長率を高めている。