自民党総裁選は10月4日に投開票を迎える(写真:アフロ)
(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)
自民党総裁選の各候補は、参院選で与野党間の争点となった一律現金給付や消費減税には消極的だ。その一方で、濃淡の違いこそあれ、いずれの候補も前向きなのが所得減税である。所得税の大まかな仕組みを踏まえた上で、各候補が掲げる所得減税案の特徴について整理する。
<参院選では一律現金給付と消費減税が争点だったが……>
自民党総裁選は10月4日に投開票を迎える。立候補者は、届け出順で小林鷹之氏(元経済安保相)、茂木敏充氏(前幹事長)、林芳正氏(官房長官)、高市早苗氏(前経済安保相)、小泉進次郎氏(農相)の5人だ。
いずれの候補も昨年の総裁選に立候補しており、顔ぶれはほぼ同じだ。ただ、掲げる公約や政策を見ると、昨年の総裁選と比べて候補間の隔たりが小さくなっている点が特徴だ。保守色の強い政策、あるいはリベラル色の強い政策を掲げた候補は、それぞれその「色」を薄めて中立的なスタンスを打ち出す動きがみられる。
決選投票で国会議員票を広く集めるため、そして野党との連立政権樹立や協力関係構築の可能性を広げるための戦略だろう。
経済政策、とりわけ物価高対策についても、自民党内の事情と主要野党の主張の両方に配慮する動きがみられる。先の参院選では与党が一律現金給付、野党が軒並み消費減税を掲げ、争点となったが、今回の総裁選では各候補がどちらにも消極的だ。
一律現金給付については、参院選総括で選挙敗北の一因に位置づけられたほか、主要野党も批判的であるため、断念する方向とみられる。消費減税については、総裁選でキャスティングボートを握る1人と目される自民党の麻生太郎・最高顧問が、野党の減税論を財源確保や社会保障制度維持などの観点から批判した影響で、各候補が消極的になっているようだ。
<所得減税が検討課題に>
物価高対策としては、一律現金給付や消費減税に代わり、所得減税が検討課題に浮上している。いずれの候補も、濃淡の違いこそあれ、所得減税に前向きである。
所得税の基礎控除等の引き上げについては、高市氏と小泉氏は公約に掲げており、茂木氏も賛意を示している。高市氏は、働く意欲を阻害しないよう、いわゆる「年収の壁」を引き上げることを公約に掲げている。小泉氏も、公約として物価や賃金の上昇に合わせて基礎控除等を調整する仕組みの導入を主張している。
高市氏は、主に立憲民主党が主張する給付付き税額控除についても公約としている。この点については立憲民主党の主張に合わせたとの見方もあるが、高市氏は持論として4年前に執筆した著書でも掲げていた。
小泉氏と林氏は、給付付き税額控除を公約に掲げていないものの、前向きな姿勢を示している。なお、林氏は給付付き税額控除に近い概念である「日本版ユニバーサル・クレジット」を提唱している。
小林氏は、時限的な定率減税と、恒久的な控除・税率構造見直しの2段階で所得減税を実施する方針を掲げている。
