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(英エコノミスト誌 2025年8月30日号)

大統領から激しい攻撃を受けているFRB(FRBのサイトより)

インフレが再燃し始めたら何が起こるか考えてみるといい。

「トゥルース・ソーシャル」のアプリをスマートフォンに入れていない債券トレーダーが気の毒だ。

 大統領が夕食後に自身のソーシャルネットワークで1通の手紙を公表するだけで、ホワイトハウスと米連邦準備理事会(FRB)の格闘がさらに憂慮すべき事態に発展したのだから。

 ドナルド・トランプ氏は8月25日、住宅ローン詐欺を働いた疑いでリサ・クックFRB理事を解任したと記した書簡を投稿した。

理事解任騒ぎでFRB攻撃がさらに激化

 米国大統領はFRBの高官を解任できるが、それは「正当な理由」がある場合に限られており、過去にこの権限を行使した大統領はいない。

 クック氏は刑事起訴されているわけではなく、ましてや裁判で有罪とされたわけでもない。

 クック氏が不正を働いた――遠く離れた場所にある2軒の住宅を購入するために住宅ローンを申し込んだ際、どちらも居住用と申告した――と最初に指摘したのは、米連邦住宅金融庁(FHFA)のビル・プルティ局長だった。

 同局長は同様の指摘をほかの数人の人物についても行っている(訴訟に至ったケースはまだない)。

 クック氏は解任の通告について法廷で争う、その間は理事のポストにとどまると明言している。

 これにより、中央銀行の独立性に対するトランプ氏の作戦行動が一気に激化した。

 トランプ氏は1期目にはFRBをほとんど重視しておらず、時折不満を漏らす程度だったが、2期目になってからは毛嫌いしている。

 金利の引き下げを公の場で声高に要求し、ジェローム・パウエル議長を利下げが「遅すぎる男」と揶揄している。

 パウエル氏の解任を匂わせることもあり、FRB本部の改修に多額の費用がかかることをその口実にしようとしたこともあった。

 FRBが高金利で住宅市場を抑制していると非難しており、先日には「我々が過半数を手に入れれば、住宅市場は活気づく」と述べている。

 今のところ、パウエル氏とFRBはこの騒ぎをおおむね無視している。利下げは昨年12月以降行っていないが、9月には実施の可能性がありそうだ。

 騒ぎに無頓着でいられるのは、FRBが法律でしっかり守られているという安心感があるからだ。理事の任期は長く、解任も容易ではない。

 連邦最高裁判所は先日、大統領による連邦政府機関幹部の解任をこれまでよりも容易にする一方で、FRBだけは特別に扱った。

 だが、クック理事への攻撃により圧力は強まっている。

 同理事の任期は2038年までだ。もしトランプ氏に忠実な人物と交代させることができれば、FRBの防御は脆弱に見えるようになるだろう。