俵万智さんが石垣島で子育てした経緯も本書には収められている(写真:hoyano/イメージマート)
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 少子高齢化、働き方改革、パンデミック、SNS、AI、温暖化、物価高騰などさまざまな要因で、私たちの暮らしや仕事はこの数年でだいぶ変わりつつある。どのように時代に合わせ、時に時代に抗いながら、私たちは生きることができるのか。『生きる言葉』(新潮新書)を上梓した歌人の俵万智氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──沖縄の石垣島で子育てをされた経験について書かれた部分は読んでいて、とてもうらやましく思いました。大自然の中で、自由に遊ぶ環境を与えたことは、その後、成長した息子さんを見て、どんな影響を与えたと感じますか?

俵万智氏(以下、俵):最初は、都会で子育てをしていましたが、子どもが自然に触れる機会を持つことが、これほど難しいことかと感じていました。

 私自身は大阪の郊外出身で、子どもの頃は、あたり前に田んぼや自然があり、シロツメクサで冠を作ったりして遊びました。でも、東京や仙台でそうした身近な自然に触れることは、かなり難しい。

 最初からこういう環境で子育てしようという計画があって移住したわけではありませんが、たまたま石垣島を訪れる機会があり、ここは小学生男子には天国のような環境だと思ったのです。

 子どもにもさまざまなタイプがいますが、うちの息子には大自然が合っているだろうと思い、移住もありだと考えました。あの豊かな環境の中で過ごせたことに感謝していると、今でもときどき息子から言われます。

 毎日が本当に冒険でした。自然の中で遊ぶということは、毎回が一期一会の経験です。同じように海で遊んだり木登りをしたりしても、同じ経験はなくて、必ず違う経験になる。それは大人によって仕組まれたり作られたりした環境ではありませんから、未知の空間で、さまざまなことを勝手に学べる。

──私も小学生の娘がいて、ときどき休みに海で磯遊びなどすると、必ず帰りがけに「大人になったら海のそばに住む」と娘が言います。

俵:いいですねぇ。どれだけその1日が素敵だったかよく伝わります。

──わが子に、どのタイミングでスマホを持たせるかということは、親であれば皆一度は考えることですが、本書でもこの点について書かれています。