(英エコノミスト誌 2024年12月21・28日合併号)
今後の展開は電力・人手・資金の深刻な不足を克服できるか否かにかかっている。
ウクライナでは、どの事業体にも比較の基準になる「参照点」というものがある。
北部プリルキで農業を営むミハイロ・トラベツキーさんの場合、それは全面侵攻直後の6週間の状況だった。
近くの高速道路にロシア軍が陣取ったことで、トラベツキーさんの農場は両軍が対峙する中間地帯と化した。
地元住民がロシア軍の侵入を阻もうと発砲すると、銃撃戦に発展した。弾丸が飛び交い、頭をかすめる。
トラベツキーさんは防弾チョッキを着用し、自動小銃をかたわらに置きつつ1日に2度、牛の乳を搾って回った。
戦争の現実に適応してきたウクライナ経済
それ以来、農場は新たに直面する困難に絶えず適応してきた。
ロシアがウクライナのエネルギーシステムを初めて爆撃し、冷蔵庫や搾乳機が使えなくなった時には、賞味期間の長い乳製品やフェタなどのチーズの生産に切り替えた。
裕福な世帯が姿を消した時には製品価格を引き下げ、牛乳を配達してもらう必要のあった地元の年金受給者に提供し始めた。
ウクライナ経済全体が戦時の現実を切り抜けるために自己変革を遂げてきた。経済規模は依然、2021年に比べて4分の1小さい。
だが、全面侵攻が始まった2022年以降では初めて、いくつかの重要な点で敵国を上回るようになっている。
ウクライナの中央銀行は、国内総生産(GDP)成長率が2024年にプラス4%、2025年に同4.3%になると予想している。
為替レートは安定しており、政策金利は13.5%と、過去30カ月で最も低い水準に近い。
通貨ルーブルの下落を食い止めるために近く政策金利を23%に引き上げる公算が大きく、銀行が脆弱に見え、2025年のGDP成長率がわずか0.5~1.5%にとどまりそうなロシアとは、まさに対照的だ。
だが、ウクライナは強い向かい風にも直面している。戦争の激化、国内資源の減少、そしてドナルド・トランプ氏の再登板だ。
果たしてウクライナ経済はどこまで持ちこたえられるのだろうか。