日本も他人事ではない

 中国の認知戦戦略は、かつてはオールドメディアや記者、立法委員などが対象だった。ところが、近年はネットインフルエンサーがターゲットになっていた。特に民進党政権に対する台湾大衆の不満に着目し、若者の世論を分断するためにネットで活躍するインフルエンサーの取り込みを強化してきた。

 だが、民進党は選挙戦において何度も中国共産党の選挙妨害を経験し、認知戦に対する経験値は非常に高い。ある程度、中国の認知戦の手口は研究し尽くしているだろう。

 さらに頼清徳政権は、民間防衛や台湾人としての愛国心を強く訴えており、中国の認知戦に対する台湾社会の警戒心と知識も十分に高まってきている。そうした世論の警戒心を高めたのが民進党政権の功績というなら、こうした反共インフルエンサーのドキュメンタリー動画による告発も、台湾の認知戦に対する反撃と見るのも、もまんざら、当たってないこともないかもしれない。

 このドキュメンタリーで語られている中国の対外世論誘導戦略は、台湾だけでなく、日本でも実行されているだろう。日本のインフルエンサーたちも中国製ショート動画プラットフォームにはまっている人が多いようだが、ぜひこのドキュメンタリーを見て、中国の認知戦への知識と警戒心を高めてほしいと思う。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。