ロシアとイランに大打撃

 だが、人道的な理由と地政学的な理由の双方から、西側諸国がアサド政権の崩壊を悔やむのは間違っている。

 アサド政権は恐らく、おぞましい体制に満ちあふれた地域で最も残忍な政府だった。

 2011年の内戦勃発以来、シリアでは50万人以上が命を落としており、犠牲者の90%以上がシリア政府とその盟友である外国勢力によって殺害された。

 拷問と殺人が日常化していたアサドの刑務所に投獄されていた数千人の政治犯が今、解放されて自由になろうとしている。

 彼らが伝える物語は恐ろしい内容になるだろう。

 アサドによって遂行された内戦を受け、数百万人のシリア人が国を逃れ、欧州連合(EU)を不安定化させる難民危機を生み、トルコに深刻な緊張をもたらした。

 アサド下のシリアは国際犯罪と麻薬密売の中心地にもなった。

 アサドの失脚はロシア、イラン両国にとっての重大な打撃でもある。

 ウラジーミル・プーチンが2015年にシリアへの軍事介入を成功させたことは、ロシアが世界的な大国として復活したというメッセージを送った。

 シリアで力と残忍性を誇示しながら国際社会からの反対に遭わなかったことが、2022年のウクライナ全面侵攻に向けてプーチンを勢いづかせることになった。

 対照的に、シリアにおけるロシアの後退と失敗はウクライナ戦争がいかにロシアの資源を枯渇させたかを浮き彫りにし、国際情勢がプーチンに有利な方向へ向かっているという考えを覆した。

 イランにとっての後退はそれ以上に重大だ。

 イランの体制はこの数十年間で、中東全土に広がる強力かつ凶悪な代理勢力のネットワークを構築した。だが、イランの代理勢力は今、一つずつ破壊されている。

 甚大な人道的な代償が伴ったとはいえ、イスラム組織ハマスはパレスチナ自治区ガザでイスラエル軍によって壊滅状態に追い込まれた。

 ヒズボラはレバノンで窮地に立たされ、もはやシリアで戦う力がない。

 イスラエルに対するイランの弾道ミサイル攻撃は失敗した。イランが今、シリア国内での強い地位を失えば、イランが地域で誇った権勢は基本的に、ものの数カ月間で崩れ去ったことになる。