キプロス、香港、ミャンマーの政情不安時に注目された

 ビットコインが初めて地政学リスクの観点で注目を集めたのは、2013年のキプロス金融危機の時である。このとき、キプロス政府は深刻な財政危機に直面し、銀行預金者の資産に対する異例の課税措置を発表した。この結果、預金者の資産が脅かされ、国民の間で取り付け騒ぎが起きた。この危機に対して、一部の人々は銀行システムを介さずに資産を移動できる手段としてビットコインを利用し始めた。

 キプロス危機以降、ビットコインは地政学リスクが高まる他の場面でも、同様の注目を集めるようになった。

 例えば、2019年の香港での大規模な民主化デモにおいても、ビットコインは資産移動の手段として重要な役割を果たした。中国政府の統制が強まる中、多くの市民が資産を海外に移す方法を模索していた。

ドルや円と並んでビットコインのロゴマークも掲げられている香港の外貨両替所の看板(写真:ⒸSebastian Ng/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)ドルや円と並んでビットコインのロゴマークも掲げられている香港の外貨両替所の看板(写真:ⒸSebastian Ng/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
拡大画像表示

 金融システムを使った資産移動が制限されるリスクが高まると、ビットコインは安全な逃避手段として注目された。匿名性が高く、政府の追跡が困難なビットコインは、中国本土の規制を回避するための手段として利用されたのである。

 また、2021年のミャンマーでの軍事クーデターもビットコインに対する関心を高めた事件の一つである。クーデター後、ミャンマー国内では銀行の機能が停止し、国民は預金の引き出しや資産移動が困難な状況に陥った。クーデターによる不安定な政治状況の中で、ビットコインなど暗号資産は現地での資産移動手段として利用され、国際的にも注目を集めた。