10月1日の中国・国慶節を祝う前夜の晩餐会で、習近平国家主席が温家宝前首相と談笑していたことが憶測を呼んでいる。温家宝氏は習近平路線と真っ向から対立しているとみられている。折しも、中国は大規模な景気刺激策を発表している。手詰まりの習近平氏が「犬猿の仲」とされる温家宝氏にアドバイスを請うたのか。それとも…。
(福島 香織:ジャーナリスト)
>>【写真】温家宝前首相と談笑する習近平国家主席
10月1日は中国の75回目の建国記念日・国慶節だった。その前日夜に例年通り、共産党の宴会が行われた。この時、チャイナウォッチャーの間で話題になったのは、習近平の傍らに温家宝が座り、談笑していた様子が、新華社など中央メディアで配信されたことだった。
温家宝は胡錦涛政権時代の首相であり、開明派官僚政治家、共産主義青年団派(団派)の長老。教師だった父親が文化大革命時代に迫害され、しばしば文革批判を公然とし、経済改革だけでなく政治体制改革も行い、党内民主を進めるべきだといった立場も隠していない。こうした立場は、鄧小平路線を逆走し、毛沢東的個人独裁方向に走る習近平と真っ向から対立していると思われ、長らく習近平と温家宝は犬猿の仲だと言われてきた。実際、党内関係者にはそう語る人が多い。
そんな温家宝が習近平の隣に座り、談笑していた。過去のこうしたイベントで温家宝が座っていた席は本来、序列2位の国家副主席か首相が座る席だ。何か党内で大きな変化が起きたのか? 習近平と温家宝が突如仲直りしたのか? 習近平の性格や思想が突如転向したのか?
建国75周年招待会の宴会は9月30日、北京の人民大会堂で行われた。CCTVのニュース映像をみると、29日に行われた建国75周年記念音楽会で欠席していた李瑞環、温家宝、呉官正、李嵐清らが30日の招待会にはそろって出席。しかも温家宝と李瑞環が習近平の左右両脇に座っていた。同じメーンテーブルに座っている顔ぶれをみると、賈慶林、張徳江、兪正声、栗戦書、汪洋、曽慶紅、李長春、賀国強、劉雲山、王岐山、張高麗…と長老たちがずらり。
以前なら、メーンテーブルは現役の政治局常務委員と首相、副首相が座っていたが今回は長老たちが座った。
また、これまでの建国記念日の招待会では、首相が議長を務め記念演説を行ってきたが、今回は習近平が議長で演説も行った。李強首相や蔡奇政治局常務委員ら習近平の側近たちはまったく存在感を示していなかった。
こうした状況についてチャイナウォッチャーたちが様々な想像力を羽ばたかせた。