高校野球女子選抜チームとの試合前にセレモニーで並ぶ、(左から)イチロー氏、松井秀喜氏、松坂大輔氏(写真:共同通信社)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 米大リーグ、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏が率いるアマチュア野球チーム「KOBE CHIBEN」が9月23日、東京ドームで「高校野球女子選抜」とのエキシビションマッチを行った。イチロー氏に加え、巨人、メジャーのヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏、同じく元メジャーリーガーで“平成の怪物”と称された松坂大輔氏も参加。内野席をほぼ埋め尽くす2万8483人の観客が駆けつけ、レジェンドたちの根強い人気の高さを示した。

 海の向こうではドジャースの大谷翔平選手がこの日も大活躍する中、この日のメディア対応では関連質問が“NG”だった。イチロー氏も事前に了承していることが前提だろう。そうだとすれば、自身のコメントが全て大谷関連で記事になってしまうことを避けた女子野球への最大限の敬意と、女子野球へ確実に目を向けさせるメディア戦略にみてとれる。

「1番・投手」で出場したイチロー氏は、試合中のマウンドでも、打席でも、真剣そのものだった。エキシビションマッチに漂いがちな笑顔も封印した。そんなイチロー氏が両手を挙げてベンチで歓喜した瞬間が試合終盤に訪れた。

 この日のために米ニューヨークから前日に帰国した松井氏の一発だ。松井氏は1回のセンターの守備で右大腿裏を負傷。自身が「肉離れじゃないか」と振り返るアクシデントに見舞われたが、臨時代走を使いながら最後までプレーを続けた。そして、8回2死からイチロー氏、そして松坂氏もこの日の初安打でつなぎ、4番の松井氏に打席が回った。

「最後の打席だったので(本塁打を)少し意識しました」というフルスイングに乗せられた打球は右翼席へ飛び込んだ。ゆっくりとダイヤモンドを一周。巨人時代のようにドームのファンを熱狂させた松井氏に、イチロー氏は「ぶったまげたね。スーパースターってこういうことなんだ。人のプレーで涙が出たのは初めてかもしれない」と感動を隠さず、出迎えたベンチで両雄が抱き合った。