前人未踏の快挙達成はあまりにも華々しかった。6打数6安打3本塁打10打点、そして2盗塁……。大谷翔平はまた、歴史を塗り替えた。

 前侍ジャパン監督であり、北海道日本ハムファイターズCBOの栗山英樹氏の新刊『監督の財産』が話題だ。

 総ページ848。その分厚さもさることながら、その大谷翔平を含めたファイターズの選手たちへの思いや、シーズン中の采配などが詳細に振り返られ、またそうした経験を経た「今」の「監督論」が人気を呼ぶ理由だ。

 今回は本書の中からファイターズ時代に見せた大谷翔平の姿、彼に当てた手紙の真意を紹介する。

大谷翔平 手渡されたウイニングボール

(『監督の財産』収録「5 最高のチームの作り方」より。執筆は2016年11月)

 大谷が最後のマウンドに上がり、日本シリーズ進出を決めた試合後のことだ。

 監督室に戻って、少しの間、安堵感にひたっていたら、ほどなくして大谷がやってきた。

「監督、これ」

 差し出してきたのは、ウイニングボールだった。

「いいよ、いいよ」と一度は遠慮したが、それでも「監督、どうぞ」と言うから、ありがたく受け取った。

 大谷は、周りに誰かがいるといつも変な反応しかしないけれど、そういう場面ではとてもピュアな野球少年に戻る。

 だからこっちも、「翔平、大丈夫か? ちょっと無理させたけど、本当に感謝してる」と、そのときは素直に言えた。

 そういう、なんてことのない瞬間が、僕にとっては宝物だ。それ以上はない。

 実は、彼から受け取ったボールはこれひとつではない。

 リーグ優勝を決めた試合のウイニングボールも、はじめて165キロを投げたボールも、全部球団の金庫の中に大切にしまってある。