一部の企業は、コスト増などの財務リスクに言及している。AIシステムの利用拡大に伴い、コストが膨大かつ予測不能になるといった問題を挙げている。

 顧客情報管理(CRM)ソフトウエア大手の米セールスフォースは、新たなAIアプリケーションに関する「不確実性」によって利益率に影響が及ぶ可能性があり、「新しいモデルの開発とテストに一層の投資が必要になる可能性が高い」と述べている。

倫理的問題、法律・規制に絡むリスクも

 年次報告書で米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」のような生成AIについて具体的に言及した企業は108社あったが、そのうちの3分の2以上は生成AIをリスク要因と捉えていた。一方、この技術をビジネス機会と捉えている企業はわずか33社だった。

 これらの開示情報は、生成AIの影響がすでに様々な業界や、米国の大手企業の大多数に及んでいることを示している。

 加えて、一部の企業は人権やプライバシー保護といった倫理的な問題に巻き込まれる恐れがあると懸念している。これにより企業イメージやブランドが毀損(きそん)される恐れがあるとみている。

 通信機器大手の米モトローラ・ソリューションズは「AIは常に意図した通りに動作するとは限らず、データセットが不十分であったり、違法、偏見、有害、または攻撃的な情報を含んでいる場合があり、これらが収益や評判に悪影響を与える恐れがある」と述べている。

 製薬大手の米ファイザーから分社化して誕生した米ヴィアトリスは、従業員やサプライヤーがAIソリューションを利用することは、「意図しない機密情報の開示」や、従業員や臨床試験参加者の個人情報への「不正アクセス」につながる可能性があると警告した。

 企業競争力の源泉となる知的財産権といった法律・規制に絡むAIリスクも、フォーチュン500社の間で共通のテーマになっている。

 メディア・エンタメ大手の米ウォルト・ディズニーは、「生成AIを規制するルールがまだ定まっていない」とし、「このことが知的財産権を使ったビジネスや作品の製作方法など、当社のビジネスモデルを脅かす恐れがある」と警告した。