大型店に向かなかった「Just Walk Out」

 一方のJust Walk Outは、カートを用いることなく、精算を自動完了させるシステムだ。システムでは、店内の天井と商品棚に設置した数百基のカメラやセンサーで顧客や商品の動きを捉える。顧客が買いたい物を棚から取ると、仮想ショッピングカートにその商品が入る。一度手に取った物を棚に戻せば、カートから削除される。その後、欲しい商品をすべて自分のバッグなどに入れて店を出れば自動精算される。

 ただし、これを実現するには、コンピュータービジョンやディープラーニング・アルゴリズム、センサーフュージョンなどの大掛かりな設備が必要になり、大型店に導入するにはコストがかかる。加えて、買い物の途中で金額がいくらになるか分からず、スーパーのように多くの商品を購入する形態の店舗では実用的ではない。Just Walk Outはコンビニでは便利だが、スーパーに向かなかったというわけだ。

 そこでアマゾンは方針を変えた。米メディアのジ・インフォメーションは24年4月初旬、アマゾンが年内に既存のAmazon Fresh店舗の大部分でJust Walk Outを撤去すると報じた。CNBCの今回の報道によると、アマゾンはWhole Foods Marketの2店舗でもJust Walk Outを撤去する。

 その一方で、小規模店舗への導入は続ける。直営のコンビニエンスストア「Amazon Go」や英国にあるAmazon Freshの小型店では引き続き同技術を活用していく。加えて、外販も続ける。アマゾンはこれまで、Just Walk Outを空港や映画館、スタジアムで店舗展開する小売事業者に売り込んできたが、この戦略を今後も継続する。

「実店舗の最大の欠点はレジ待ちの列」

 同社は今回の声明で「ショッピング体験を再考する旅を始めてから10年で多くのことが変化したが、1つ変わらないことがある。それは、買い物客は列に並ぶことを嫌がるということだ」と説明した。

 Just Walk OutやDash Cart、手のひら決済システム「Amazon One」といったレジなし技術は当初、自社店舗のために開発した。だが、現在は世界中の数百カ所に導入されているという。AWSアプリケーション担当副社長のディリップ・クマール氏は「レジ待ちの必要がなくなり、ショッピング体験は大きく改善された」と強調した。

 アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、18年の株主宛て書簡で同社が実店舗事業に進出するにあたり掲げた構想を説明した。それは、顧客満足度の向上につながる何かを発明することだったという。そして、実店舗の最大の欠点を取り除こうという考えに至った。「それがレジ待ちの列だった」と同氏は説明した。アンディ・ジャシー指揮下の今のアマゾンもこの考えは変わらないようだ。