バーナンキ反撃、メディアを味方に
一方、バーナンキは2月18日、米国の記者クラブというべき「ナショナル・プレス・クラブ」で異例の講演を行った。現役FRB議長がクラブに出向き、記者との質疑応答に臨んだ例は過去にない。「メディアを味方につけ、自らの存在価値を高める。バーナンキの再任ロビイ活動が始まった」。そう読んだワシントンのインサイダーは少なくない。
3月15日の晩にも、バーナンキは極めて稀な行動に出た。テレビのニュースショーに出演し、国民に直接語りかけたのだ。FRB議長がテレビインタビューに応じたのは、1987年以来の「事件」となる。
一般国民にとってFRBは馴染みがないし、バーナンキの名前を知らない有権者も少なくない。しかし、このテレビ番組の視聴者の一般的な感想は次のようになるだろう。(1)バーナンキはサウスカロライナ州にある田舎町の貧しい出身であり、「ウォールストリート」の対極に位置する「メインストリート」の気持ちが分かる、(2)金融システム安定にとって、最大のリスクは「政治意思の欠如」になる、(3)FRBは全力で問題の対処に努めており、金融安定化に成功し、リセッション(景気後退)は年内にも終息するだろう・・・。要は、「我ここにあり」ということだ。
バーナンキが一般国民に直接売り込むのは、自らとFRB組織の両方の「政治資本」が消耗しているためだ。
「グリーンスパン神話」も手伝い、最近までワシントンではFRB議長とFRB組織への政治的攻撃はタブー視されていた。しかし金融危機発生後、財務省とFRBが主導する形で税金を投じる銀行救済策が実施されると、納税者の怒りが爆発した。もはや議会公聴会などで、政治家がバーナンキを罵倒する姿は珍しくない。
「危機の最中にFRB議長を交代させるのは危険だ」。バーナンキ議長はこうした世論を醸成したいのだろう。「大恐慌研究の第一人者」を自任する学者バーナンキにとって、金融危機収束に失敗して退任するシナリオは二重の屈辱になってしまう。
「第3の候補」温厚なイエレンSF連銀総裁
FRB議長の座、射止めるのは?〔AFPBB News〕
今後、金融危機が改善に向かうと、バーナンキ再任の確率は上昇する。逆の展開になれば、サマーズがFRB議長の座を射止める可能性が高まる。しかし、傍若無人なサマーズ委員長は議会に敵が多いし、FRB内部にもアレルギーを持つ者が少なくない。
こうした中、「第3の候補」とささやかかれるのが、サンフランシスコ連銀のイエレン総裁である。クリントン政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたが、温厚な人柄のイエレンは党派色が強いタイプではなく、中立性の要求されるFRB議長に向いている。
また、イエレンはFRB内外で第一級の経済学者と評価されており、その点でもバーナンキやサマーズと比べて遜色ない。バーナンキとサマーズが激闘を繰り広げるFRB議長レースは、第3の候補イエレンを含めて半年以内に決着するだろう。

