この范文虎の行動について、ある中国語サイトでは「滅亡した南宋の将軍だった范文虎が、並み居るモンゴル人大将を差し置いて撤退の決断を行えただろうか」という疑問が呈されていました。また、逃げ帰った范文虎はなぜか処罰されることはなく、その後も出世を果たしています。それはあまりにも不自然であり、「将兵を見捨てる決断をした他の将軍のスケープゴートにされたのではないか」とも推論していました。

 范文虎は「兵を見捨てた、だらしがない武将」として伝えられていますが、そういう見方もあるのかと感心させられました。中国人による元寇の論考はあなどれません。

「蒙古襲来絵詞」に描かれた元軍

もっと知られてほしい元寇

 以上、中国で元寇がどう認知され、評価されているかについて紹介しました。前述の通り、中国では一般的に元寇はほとんど知られていません。

 なにも日本を侵略しようとした歴史を忘れるなと言うつもりはさらさらありませんが、やはり、現代中国人にも元寇をもっと知ってほしいところです。元寇が中国で広く知られるようになれば、研究がもっと深まるはずだと思うからです。

 元寇に限らず、日本の鎌倉時代は戦国時代や江戸時代ほど人気がありません。しかし研究が深まれば、もっと面白い事実が出てくるはずです。日中双方で鎌倉時代の研究が広く行われ、新たな事実が発見されることを願っています。

◎「覆される元寇の常識」バックナンバー
(第1回)元寇『幕府軍が一騎打ちでボコボコにされた』は本当か
(第2回)元寇「神風のおかげで日本がミラクル大勝利」は本当か