• 英調査会社によると、引用回数で上位1%の論文執筆者の数で、中国科学院が米バーバード大学を初めて上回りトップに立った。いわば「世界の頭脳」が中国になったわけだ。
  • だが、足下では習近平国家主席の「反知性主義」の下で、脱英語化や教育産業に対する統制が強まっており、中国が世界の頭脳であり続けることは難しそうだ。
  • これまで中国は英語教育を重視するなど海外からの知識の吸収に力を注いできたが、逆回転しつつある。「低脳」ほど出世し良い生活ができるという、中国の小説「聊斎志異(りょうさいしい)」の物語・羅刹海市に出てくる「あべこべの国」に成り下がりつつある。(JBpress)

(福島香織:ジャーナリスト) 

 最近の英調査会社クラリベイトの調査によると、引用回数で上位1%の論文を過去10年間に複数執筆した研究者の数で、中国科学院が初めて米ハーバード大学を抜いてトップに立ったそうだ。つまり、世界で最高の頭脳が集まる研究機関は、中国科学院、ということだ。研究機関別のトップ5は中国科学院270人、ハーバード大学237人、米スタンフォード大学126人、米国立衛生研究所105人、中国・清華大学78人の順。

 中国の頭脳は優秀だ。間違いない。だが、それはひょっとすると今がピークかもしれない。なぜ、そう思うのか、いくつかの兆候を紹介したい。

 最近少し話題になったのは、中国科学院の研究員に対する給与の支払いが遅延するという通達だ。中国のSNSを通じて、中国科学院傘下の中国科技大学側から、研究に対する国家助成金(12月分)の振り込みが遅れる、との通達があった。「このため、大学の財政が困難になっている。もっか助成金を得られるように懸命に努力している最中であり、入金され次第、みなさんに給与をお支払いするので、経費の節約をしつつ、我慢強く待ってほしい」といった内容が伝えられた。

 中国で最高の頭脳が集まり、世界最高水準の研究機関ですらこのありさま、ということは他の大学、研究機関は推して知るべしだ、と話題になった。

 研究者、学者の経済困難状況については9月に興味深いニュースがあったことを覚えているだろうか。中国科学院地球環境研究所を修了した博士が、仲介業者を通じてシンガポールで翻訳の仕事に従事することになっていたが、だまされてミャンマーに連れていかれタイ国境付近のミャワディで監禁され、電信詐欺に従事させられていたのが救出されたという事件だ。彼は英語が堪能なので英語圏の人間をターゲットにした詐欺犯罪に従事させられ、詐欺ノルマが達成されなければ暴行されるなどの迫害を受けていたという。

 このニュースが流れたとき、中国最高頭脳の中国科学院博士ですら電信詐欺にだまされるのか、という驚きとともに、彼らが金に困って海外の出稼ぎ口を探さねばならないほど、国内の高学歴者が就職難であることにも明らかになったのだった。

 重点大学を出て、頭が良ければ高い賃金の就職を得て豊かで文明的な暮らしが約束される、そんな価値観、常識が習近平体制になってから大きく崩れてきたことの証左だと言われた。