写真:渡部陽一

戦場カメラマンとして活躍する渡部陽一。戦場でもっとも時間を取るのが「待つ」こと。その間、ほとんどを本を読んで過ごした。戦場で読み、支えてきたおすすめの本とは?

渡部陽一が撮ってきた「戦場の写真」をベースに、争いの背景、現実とその地域の魅力について解説するコンテンツ、渡部陽一【1000枚の「戦場」】よりご紹介する3回連続連載の第二回。

文=シンクロナス編集部

 こんにちは。戦場カメラマンの渡部陽一です。今日は僕の仕事部屋から、ご報告させていただきます。

 僕のうしろに様々な本や資料が並んでいます。

 今まで取材してきた写真や、掲載された雑誌、さらに印象に残った書籍を選抜して、ここに入れてあるんです。

 取材資料はもちろん入れてあるんですけど、僕の仕事で一番大切なことは戦場でひたすら待つこと。そして、移動することを待つ、情勢が動くことを待つ間、日本から持ってきた本を読むことが、取材先での楽しみなんです。

 そんな取材先で読んだ本の中でも、僕自身に大きな力を与えてくれた本は、今でも大切に持っているんです。今日は、その書籍の中からいくつかご紹介したいと思います。

 とても印象に残った本のひとつめがこちら。
ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄(上)』(新潮文庫)

 アメリカ大陸のゴールドラッシュの時期を描いたもので、まさにサバイバルそのもの。アメリカの開拓、人が生きていく上での尊厳、誇り、そして家族のつながり、命を賭けた日々が強烈に描かれています。この本を戦場で読み、深く、僕に影響を与えたんです。

 さらに、特に20代影響を受けたものは、
アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』(岩波文庫)

 日本では「巌窟王」とも呼ばれているモンテ・クリスト伯です。エドモン・ダンテスという主人公が、フランス南部の島に閉じ込められてしまい、そこから復活していくストーリー。まさに苦しみから、自分の人生を切り開いていく。そんな勇気と希望を与えてくれた本なんです。