3月9日の日本経済新聞に、「レセプト完全電子化を後退させるな」という社説が掲載されました。社説の概要は以下の通りです。

 レセプト(診療報酬の明細書)の完全電子化は必ず成し遂げるべき医療制度改革の柱である。請求事務の効率化や人件費の圧縮を通じ、国民医療費の増大を抑えるのに役立つからだ。さらに過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるようになる。

 政府は11年度から完全に電子化すると閣議決定済みだが、この公約をほごにして「完全電子化」を「原則電子化」に変え、3月中に閣議決定し直すよう求める声が自民党内に急速に広がりつつある。同党の支持基盤である日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の反対運動を受けた動きだ。背景には、次の衆院選で電子化への反対を掲げて医師会などの票を取り込もうとする一部の野党の戦術があるようだ。

 コンピュータの投資負担が重い、高齢の医師が経営する過疎地の診療所では対応できないなどの理由を挙げているが、言い訳ではないか。患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮があるとすれば、憂うべき事態である。

 これに対して医師会をはじめ医療関係者からは、「事実誤認に基づく内容であるだけでなく、全国各地で真摯に地域医療を支えている医師や医療関係者と患者との信頼関係を揺るがすものであり、断じて容認できない」、そして「これ以上医療崩壊を加速させてはならないという切実な危機感からの反対を『言い訳』と歪められたことは極めて遺憾」などの抗議声明が相次ぎました。

 いったい何が起こっているのでしょうか? そして本当に解決すべき課題は何なのでしょうか? 今回と次回の2回にわたって、このレセプト電子化にまつわる問題を考えてみたいと思います。

レセプト電子化の延期は、医師会の利権優先のため?

 「レセプト(診療報酬明細)」とは、医療機関が患者に治療や処方を施した際に、健康保険負担部分を支払ってもらうために、健保組合などに提出する請求書のことです。その請求書のやり取りを、オンライン上のコンピューターを介して行おうというのが「レセプト電子化」です。

 日経新聞の社説では、2010年度から「完全電子化」されることが決まっていたレセプトが、「原則電子化」に変更されるのは、選挙を前にして、圧力団体である医師会の利益を優先した結果ではないかと論じています。

 2月28日にも、産経新聞に「レセプト請求 完全オンライン化先送りへ 医療制度改革後退」と題する記事が載り、その中で「衆院選を控え、日本医師会などの反対論に配慮した」ということが書かれていました。

 どうやら、レセプト電子化を延期するのは「医師会の利権を守るため」と認識されていることが多いようです。

 本当に医療の現場を理解した上でそういう記事が作成されているのなら、問題はありません。けれども、私にはとてもそうとは思えないのです。