インテルの創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が「ムーアの法則」を発表してから約60年。半導体集積回路上のトランジスタ数は、約50年にわたりムーアの法則に従って指数関数的な増加を続けてきた。
近年、ムーアの法則が限界を迎えつつある。しかし、ムーアの法則が限界を迎えようとも、集積回路の集積度の増加を止めることは許されない。社会全体のDX化、IoTの普及、そしてAIの登場。これらすべてが高集積化された半導体を必要としているのだ。
どうすれば集積回路の集積度を増加させ続けることができるのか、半導体業界はどう変化していくのか、今後の半導体業界では何が重要となるのか──。『半導体超進化論 世界を制する技術の未来』(日経BP)を上梓した黒田忠広氏(東京大学大学院教授)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)
──近年、「ムーアの法則が終焉する」という話をよく耳にするようになりました。ゴードン・ムーア氏は、ムーアの法則が限界を迎える可能性があることを、どの程度予見していたのでしょうか。
黒田忠広氏(以下、黒田):2003年、国際会議の講演でムーア氏は「(集積回路上のトランジスタ数の増加が)指数関数的に永遠に続くことはない」と断言しました。ただ、続けて「指数関数的な増加の終焉を遅らせることは可能である」と発言されました。
集積回路上のトランジスタ数の指数関数的な増加の終焉を遅らせること。これこそが、半導体に携わる研究者や技術者が、現在果たすべき役割なのだと思います。
──書籍の中で「社会は資本集約型の工業化社会から知識集約型の知価社会へと進化する」と書かれていました。知価社会とはどのようなものか、また知価社会で半導体にどのような役割が求められるのか、教えてください。
黒田:最近「モノからコトへ」「モノからサービスへ」という言葉を耳にしませんか。物理的な「モノ」ではなく「コト」や「サービス」、すなわち知識に価値が見出される世界。それが知地価社会です。
これまでの工業化社会では、半導体は部品でした。ネジや釘と同様、最終製品の中でそれが使用されていることを消費者は気付かない。影の存在です。部品には、規格化されたものを大量に安く提供することが求められます。
一方、知価社会ではデータが肝となります。大量のデータを機械学習で処理し、AIを用いた様々なサービスが社会実装されつつあります。
データを集めるには、IoTが必要です。IoTにはセンサーや通信端末など、半導体を内蔵する機器が用いられます。さらに、半導体がなければ集めたデータを分析することができません。
データ分析を用いたサービスを消費者に提供する際には、スマートフォンなどの端末が使われます。スマートフォンの中には、半導体が詰め込まれています。
知価社会では、あらゆるところに半導体が使われる。そこまでなると、半導体はもはや部品産業ではすまされない。知価社会において半導体は、インフラとなり得るのです。
──二次元的な微細化を推し進めるムーアの法則に対し、三次元的にチップを集積していく「More than Moore」の重要性について、書籍内で触れられていました。なぜ今、チップを三次元集積していくことが必要とされているのでしょうか。