検索市場で圧倒的なシェアを持つ米グーグルが、その収益性の高いビジネスを維持するためのコストは高まる一方だと、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。
Bing、検索シェアじわり伸ばす
この状況は、米マイクロソフト(MS)が検索エンジン「Bing(ビング)」に生成AI(人工知能)技術を組み込んだ2023年2月以降明確になったという。グーグルのインターネット広告の年間売上高は2240億ドル(約30兆1300億円)で、検索広告はそのうち7割を占めている(決算資料)。
米調査会社のインサイダー・インテリジェンスによると、グーグル検索の市場シェアは23年3月時点で96.7%。一方、Bingのシェアは以前1.22%だったが、生成AI導入後は2.6%と、わずかながらも拡大した。
スマホシェア最大のサムスンが移行検討中
グーグル検索は依然として圧倒的なシェアを持ち、Bingが容易にそのシェアを奪えるものではない。しかし、米ニューヨーク・タイムズは23年4月16日、韓国サムスン電子が自社スマートフォンのデフォルト(標準)検索エンジンをグーグルからBingに切り替えることを検討中だと伝えた。この報道により、マイクロソフトのグーグルへの脅威がより顕著になってきた。
米調査会社のIDCによると、サムスンはスマホの出荷台数で業界トップのメーカーであり、世界出荷台数のうち2割が同社製端末である。このため、サムスンの方針転換がもたらす意味は大きく、グーグルにとって脅威となる。とりわけこの動きに米アップルが追随するとなれば、脅威はさらに大きくなる。
ニューヨーク・タイムズが入手したグーグルの内部資料によると、サムスン端末にグーグルが標準の検索エンジンに設定されていることによって、グーグルは年間約30億ドル(約4000億円)の広告収入を得ている。一方、アップル端末からの広告収入は約200億ドル(約2兆6900億円)に上るという。
端末メーカーなどに年6.6兆円の手数料
グーグルは端末メーカーや外部サイトなどの提携企業に対し「TAC(トラフィック獲得コスト)」と呼ばれる手数料を支払っている。これはユーザーが、グーグル検索などのサービスを利用することで同社に広告収入が入る際、その一部を提携企業に分配するというものだ。その費用は22年の1年間だけで490億ドル(約6兆5900億円)近くに上った。
一方、グーグルはBingに対抗するため、自社検索エンジンに対話型の生成AIを組み込む計画だ。同社のスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)が先ごろ、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで意向を明らかにした。しかし、生成AIを導入・運用するためには半導体やコンポーネント、電力要件など多額の費用がかかる。マイクロソフトとの競争で後れを取らずに進むには、今後一層のコスト増が予想されると、同紙は報じている。
グーグルの中核事業は現在、他の問題を抱える余裕がない状況だとも同紙は伝えている。ネット広告市場が依然として低迷しているためだ。グーグルの23年1~3月期における広告収入は2四半期連続で減少し、23年通期の伸び率も4%未満にとどまると予想されている。これは、過去5年間、年平均19%の成長を記録してきた同社にとって急激な減速だと同紙は指摘している。