ウクライナを訪問しゼレンスキー大統領と会見した岸田首相。ポーランドから列車経由でウクライナに入ったことが、キーウ到着前に日本のメディアによって伝えられていた(2021年3月21日、提供:Ukrainian Presidential Press Office/UPI/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 今年の参議院予算委員会ほど無内容な国会は珍しい。立憲民主党の小西洋之議員が総務省の8年前の「内部文書」を持ち出して放送法の解釈変更を追及し、高市早苗経済安全保障担当相が、自分についての記述が「捏造だ」と言い、捏造でなかったら議員辞職すると答弁したため、ほぼ1カ月、国会審議がこの文書をめぐる論争に費やされた。

 その中で、忘れられた問題がある。小西議員がこの文書を「超一級の極秘文書」とする一方、その入手経路を明らかにしないことだ。これは国家公務員法の守秘義務違反にあたる疑いが強いが、当の総務省がこの問題を避けているのだ。それはなぜだろうか。

白昼堂々おこなわれた国家公務員の「秘密漏洩」

 国家公務員法100条では「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と守秘義務を定め、「職務上の秘密に属する事項を発表するには、所轄庁の長の許可を要する」と規定している。

 つまり国家公務員法にいう「秘密漏洩」とは、公務員が職務上の秘密を(情報公開請求などによる)許可なく発表することである。この意味で「厳重取扱注意」と公印が押された今回の文書が「職務上の秘密」にあたることは明らかだ。

 同法109条では「秘密を漏らした者」について「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定めている。小西氏によると今回の文書は「総務省職員」から提供されたというから、この職員が守秘義務に違反したことも明らかである。

 では公務員が秘密を漏洩しても、国家公務員法違反にならない場合があるだろうか。小西氏は本件が公益通報だと主張しているが、公益通報者保護法によれば、公益通報とは「個人の生命又は身体の保護その他の犯罪行為の事実」を外部に通報することである。

 公益通報者が保護されるのは、官製談合のように役所の中で犯罪が行われた場合であり、今回の放送法の解釈が犯罪行為でないことは明らかだから、公益通報には当たらない。小西氏は(おそらくこれを意識して)「放送法の違法な解釈変更」と繰り返しているが、法律に違法な解釈などというものはない。