米軍の主力戦車「エイブラムス」31両をウクライナへ供与することを表明したバイデン米大統領(2023年1月25日、写真:AP/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 アメリカ政府はウクライナにストライカー装甲戦闘車90両、ブラッドレー歩兵戦闘車59両、MRAP(耐地雷伏撃防護車両)53両、ハンヴィー(高機動多用途装輪車両)35両といった戦闘用車両を、対戦車ミサイルなどの弾薬とともに供与することになっていたが、それに加えてM1A2エイブラムス戦車31両を供与する計画を発表した。

 バイデン政権がウクライナに戦車を供与する決定を下したのは、NATO諸国(ドイツ、ノルウェー、ポーランド、スペイン、オランダ、カナダ、加えて間もなくNATO加盟が正式に承認されるであろうフィンランド)にウクライナへの戦車供与を促進させるためという理由がある。実際に、アメリカによる戦車供与の計画発表を受けて、これまで戦車供与に関しては積極的でなかったドイツも自軍の在庫から戦車をウクライナに供与する方針を明示した。

ドイツがウクライナに供与するレオパルト2A6戦車(写真:クラウス・マッファイ社)

 すでに戦車の供与を明らかにしていたイギリス、ポーランド、ノルウェーに続いて、他のNATO諸国も戦車をウクライナに供与することになるため、ウクライナ軍はNATO諸国から手に入れる80~100両の戦車で戦車大隊を2個隊編成することが可能になりそうだ。

イギリスがウクライナに供与するチャレンジャー2戦車(写真:英国防省)

 戦車部隊2個大隊の増強がウクライナ軍の戦闘力強化にどのように役立つかは不明である。もちろん戦車数の増加は戦力増強にほかならないが、ドイツ製やアメリカ製の戦車はこれまでウクライナ軍が使用してきた戦車より格段に重いため、ウクライナの戦場が泥濘化する時期には使用困難になってしまうと言われている。さらに、西側の最新戦車は運用やメンテナンスに複雑な問題を引き起こすからだ。