若宮大路の一の鳥居 撮影/西股 総生(以下同)

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

史実をベースにエンタメに仕上げる妙

『鎌倉殿の13人』のストーリーは、史実をベースに構成されています。とはいえ、ドラマは本来はエンタテインメントですから、史実がそのまま描かれているわけではありません。むしろ、全体としてはフィクションだと考えた方がよいでしょう。

 今回描かれた和田合戦の場合も、挙兵に至るいきさつや、戦いの展開などは、基本的にはフィクションです。まあ、視聴者の皆さんも、和田義盛が女装して御所に忍び込んだのが史実だとは、思っていないでしょうが(笑)。

 ただ、その一方、意外に細かいところが、史料の記述に即して描かれていたりします。たとえば、和田一族が大挙して御所に押しかけ、その面前を後ろ手に縛られた胤長が歩かされるシーンなどは、『吾妻鏡』の記述そのままです。

和田義盛

 また、ドラマでは、トウが和田一族の挙兵を急報したとき、義時は双六をしていましたね。「双六」というアイテムは、上総介広常の粛清シーンを思い起こさせます。和田義盛が自分を上総介になぞらえようとしていたことと合わせて、いかにも三谷幸喜さんが好きそうな設定に思えます。

 でも、義時が自邸で双六をしていて挙兵の報に接したというのは、ちゃんと『吾妻鏡』に書かれている話なのです。このあたり、史実をベースにエンタテインメントとしてストーリーを構成するやり方が、実に巧妙です。

和田一族供養塔の伝説がある和田塚

 和田合戦について、『吾妻鏡』はもう一つ、面白いエピソードを載せています。

 泰時がしたたかに酒を飲んで二日酔いで倒れていた所へ、挙兵の急報が入ります。驚いた泰盛は、吐き気をこらえながら甲冑を着けて出撃していったのですが、馬を走らせているうちに猛烈に喉が渇いてきました(二日酔いの経験のある方なら共感できますよね)。そこで、金輪際、酒は断とうと天地神明に誓って決意しました。

 ところが、大慌てで出てきたために、飲み水を用意していません。ふと見ると、近くにいる武士が腰に竹筒を下げています。そこで、「水を一口分けてくれないか」と話しかけとたところ、「あいにく水はないが、酒ならあるぞ」と言って、竹筒を差し出されました。受け取った泰時は、先ほどの誓いも吹き飛んでゴクリと飲んでしまいました。迎え酒ですね。そして、今後は度を超した大酒はやめようと、誓いを軌道修正しました(笑)。

 のちに名執権と謳われることになる北条泰時の、若き日の〝武勇伝〟です。ドラマでは、このエピソードをうまく利用して、父義時との相克の中で和田合戦に臨んだ泰時の苦悩を描いていましたね。

 また、ドラマでは若宮大路の段葛をはさんで、泰時が和田方と戦うシーンが出てきます。『吾妻鏡』には「北条方は建物の戸板をはずして敵の矢を防いだ」という記述や、「泰時が若宮大路方面に出撃して防戦した」という記述があります。

若宮大路の段葛。和田合戦ではこの付近でも戦闘が展開した

 大河ドラマにおける考証とは、「史実をいかに映像化するか」ではないのです。「本質的にフィクションでありエンタテインメントであるドラマに、いかにリアリティを担保するか」こそが、考証の妙味。このドラマで中世軍事考証を務めている筆者(西股)は、そんなふうに思っています。

 なお、筆者は11月5日発売の『歴史群像』12月号に「鎌倉炎上! 和田合戦」という記事を書いています。和田合戦について詳しく知りたい方、史実とドラマの違いに興味のある方は、ぜひご一読下さい。