部分動員令で招集した兵士の訓練を視察したプーチン大統領(10月20日、写真:ロイター/アフロ)

(文中敬称略)

 勃発から8カ月を超えたウクライナ戦争は、膠着状態(1)から戦局が大きく変わり、9月のハルキウ州でのウクライナ軍大攻勢でロシア軍が後退し、その後はウクライナ東部と南部での同軍の劣勢が、連日のように伝えられている。

 米国やウクライナがこの戦局を楽観視し過ぎることへの警告(2)もあるにはある。

 しかし、流れ出す論評はそのほとんどが、ロシアの敗北とウクライナの最終勝利を既成事実として積み上げているかの感がある。

 それでも、この戦争がいつ終わるのかの見通しとなると、誰もが間違いなしの太鼓判を押せる予測はまだ出ていないようだ。

 この予測は、戦局次第でこれまで何度も変化してきた。

 緒戦段階の「この年末までは続く」から、戦局膠着での「来年一杯はかかる」へと変わり、ウクライナ軍の攻勢が喧伝されるようになれば、「来年の夏」、いや「春までに」、さらには再度「この年末までに」などと時間軸を動き回っている。

 予測はしょせんその時点での戦局次第という宿命は、ウクライナ戦争に限った話ではない。

 そして、ここへ来て核戦争勃発に関する諸論が噴出し始めていることから、戦局の帰趨占いは、ウクライナが押しまくって、それがロシアの核兵器使用を惹き起こす、といった想定にも左右されていくことになる。

 5月のこのコラム(3)で和平・停戦の必要性を説いた。

 これ以上紛争での犠牲者の数を増やすべきでないことは当然として、状況の深刻化で核兵器が使用される可能性が高まっているなら、そうさせないためにもこれらの必要性を従来にも増して叫ばねばならなくなる(4)。

 今のロシア敗北論者の目には、核兵器が関わってこようと、現状での停戦・和平の試みはロシアの策略に嵌る単なる利敵行為としか映らないようだ。

 だが、その思考回路は、死傷者・犠牲者の数に注意を向けない「戦争をゲームのように論じる」姿勢として批判(5)され、議論で暗黙の前提とされているロシアの降伏(2014年以降の拡張領土の放棄と損害賠償支払い)も、核戦争の脅威が現実味を帯びれば、筋書きから消えてなくなるものでしかない。

 とは言え、現在の状況から見れば、停戦・和平交渉をロシア・ウクライナの2国間にだけ任せていたのではまず成り立ちそうもない。

 周知の通り、双方ともに引くに引けいない処まで踏み込んでしまった。

 ウクライナ大統領・V.ゼレンスキーは、公式にロシア大統領・V.プーチンとの交渉拒否を宣言し、NATO(北大西洋条約機構)加盟までの暫定措置として、自国の安全保障に関わるロシアを排除した国際条約案(ウクライナの中立化否定)(6)を提起した上で、クリミアを含む2014年以前の全領土奪還が完了するまで戦いが続くと公言する。

 ロシアも、国内での部分動員令発令(7)とウクライナ領4州の新たなロシアへの併合(8)に踏み切った。