(田丸 昇:棋士)
超党派で将棋の文化活動を行う「大連立」
7月の参議院選挙の最中に銃撃されて死去した安倍晋三元首相の「国葬」が9月27日に日本武道館で執り行われた。秋篠宮殿下をはじめ皇族の方々、葬儀委員長の岸田文雄首相や閣僚と国会議員、諸外国の政治家や大使など、およそ4100人が参列した。
国葬については、安倍元首相への賛否両論の政治的評価、過去の首相の葬儀と比較した法律的根拠、国会の議論に諮らないで閣議決定、警備費などの莫大な経費、コロナ禍での実施などに批判が寄せられ、メディアの世論調査では反対が半数を超えた。
私こと田丸昇も国葬に反対の考えだった。ただ当日は秋晴れになり、国葬がトラブルもなく完遂されたのは良かった。
さて、安倍元首相と将棋に関連するエピソードを紹介しよう。それは11年前に遡る。
2011年(平成23)8月23日。国会の議員会館で「将棋文化振興議員連盟」を設立する旨の総会が開かれた。民主党、自民党、公明党、共産党、国民新党、たちあがれ日本、みんなの党など、衆参両院より約50人の国会議員が出席した。超党派で将棋の文化活動を行う「大連立」でもあった。※政党名は当時。
まず発起人代表として山東昭子議員(自民・参院)は、「日本の伝統文化である将棋の普及と発展を図りながら、党派を超えて親睦を深めたい」と挨拶した。そして、会長に「黄門さま」の愛称で親しまれている渡部恒三議員(民主・衆院)が選ばれた。会長代行は山東議員が就いた。事務局長は米長晴信議員(民主・参院)で、米長邦雄永世棋聖の甥に当たる。
当時は民主党の政権下で、菅直人議員(民主・衆院)が内閣総理大臣だった。2011年3月11日に発生した東日本大震災の問題については、菅首相が復興対策を円滑に進めるために、自民党総裁の谷垣禎一議員(衆院)に大連立を打診したことがあった(結果は不成立)。国会では与野党で論戦が繰り広げられていたが、近年ほど対立は激しくなかったと思う。
将棋文化振興議員連盟の席上では、安倍元首相(2007年9月に退任)と鳩山由紀夫元首相(2010年6月に退任)が、隣席で談笑する珍しい光景が見られた。会話の内容は分からないが、元首相同士として親近感があったのだろう。また、政府への意見が先鋭的な共産党の議員も、この日はにこやかな表情だった。