政局を仕掛けたクリスティアン・リントナー財務相(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ドイツ政府は10月10日、エネルギー価格の高騰に苦しむ家計や企業を対象に、960億ユーロ相当(約16兆円)の支援策を実施する方針を明らかにした。

 第一弾として、12月にガス料金の1カ月分に相当する給付金を家計や企業に対して与える。続く第二弾として、来年3月からガス料金に対して価格抑制策を実施する。

 価格抑制策は来年3月から2024年4月までの時限措置となるが、ガス使用量の80%まで、1キロワット時当たり12セントにガス料金を引き下げる。また大口需要家の企業に対しては、来年1月から同70%まで同7セントの上限を設定する。

 エネルギー価格の高騰に苦しむドイツの家計や企業にとっては、待望の措置だったといえよう。

 問題は財源だ。

 年内承認予定の政府による追加借り入れで賄うことになるが、これは今年と来年の予算に含まれない特別枠での借り入れとなる。オーラフ・ショルツ首相らが、財政規律を重んじる自由民主党(FDP)党首のクリスティアン・リントナー財務相に配慮した形だが、最終的には納税者負担であることに変わりはない。

 それに、こうした措置はあくまで一時的な「痛み止め」であり「対症療法」に過ぎない。問題の本質であるエネルギー不足そのものを解消する、つまり「根治療法」をしなければ、状況は改善されない。

 ショルツ政権は経済活動の基本となるエネルギーの安定供給の確保に努めなければならないはずだが、政権内での議論は依然として交錯している。

 それは、環境政党である同盟90/緑の党(B90/Grünen)がショルツ連立政権でエネルギー政策を担っているからだ。