中国・福建省の福清原子力発電所(資料写真、写真:新華社/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 ウクライナ戦争で化石燃料の価格が急上昇する中で、原子力をめぐる状況が大きく転換している。脱炭素化の「タクソノミー」をめぐって議論が続いていた欧州議会は7月6日、原子力と天然ガスを「持続可能」と認めるEU委員会の提案を承認した。これには法的拘束力がないが、今後の脱炭素化投資では原子力が有力な選択肢となる。

 昨年(2021年)「ネットゼロ」(温室効果ガス排出実質ゼロ)報告書で再生可能エネルギーがエネルギーの主役だと謳い上げた国際エネルギー機関(IEA)は今月、2050年に原子力発電量を2倍にする必要があるという報告書を発表し、「原子力の新しい夜明け」を予言した。

原子力開発の中心は中国とロシアに移った

 EU(欧州連合)はネットゼロを提唱し、2050年にCO2排出ゼロにする目標を打ち出していた。そのリーダーがドイツだったが、ウクライナ戦争でパイプラインが遮断される危機に直面し、EU委員会は原子力とガスを持続可能な(非化石)エネルギーに含める提案を出した。

 ガスは化石燃料だからこれはご都合主義だが、ゲームで不利になったら、ゲームのルールを変えるのがEUの得意技である。

 これは単なる電力の問題ではない。6月15日、ロシアで「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」が開かれた。これは「ロシアのダボス会議」とも呼ばれるロシア政府の大イベントで、今年はG7(先進7カ国)はすべて欠席したが、中国やインドやブラジルなど127カ国が参加した。

 例年に比べて1割ぐらい減ったが、いわゆるBRICsはすべて参加したわけだ。国連のロシア軍の即時撤退を求める決議にも141カ国が賛成する一方、中国やインドなど35カ国が棄権した。

 これは「ウクライナ侵略に対する西側の経済制裁でロシアは孤立している」という日本人のイメージとは違うだろう。ロシア経済はまだ健在で、少なくとも中国とインドはその味方なのだ。

 IEAが強調するのは、原子力開発の主導権が中国とロシアに握られているという事実である。西側のエネルギーが脆弱になると、今回のようにエネルギーがロシアの「武器」になる。エネルギーの安定供給を確保することは、国家の安全保障にとっても重要なのだ。