北京冬季五輪の最終日、フィギュアスケートのエキシビションに参加した羽生結弦選手(2022年2月20日、写真:新華社/アフロ)

(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 北京オリンピックが閉会しても、中国人の“羽生賛美”の熱気は収まらない。オリンピック期間中、中国人の目を最もくぎ付けにした選手は、紛れもなくフィギュアスケートの羽生結弦選手だった。中国最大のソーシャルメディア「微博(weibo)」には約270万人がファン登録しているが、一説には「1000万人のファンがいる」とも言われる。ギクシャクする日中関係を吹き飛ばすような中国人の熱狂ぶりを観察すると、8つの人気の理由が浮かび上がってきた。

【その1】古代中国の詩歌に通じる“演技の美しさ”

 美しい四肢に情感を込めて演じる羽生選手の舞に、世界の観衆は息を飲んだ。2月8日、男子ショートプログラムに出場した羽生選手の演技を、国営放送の「CCTV(中国中央電視台)」解説委員は、「洛神賦(らくしんふ)」の詩歌になぞらえた。

「容顔如玉,身姿如松,翩若惊鴻,矯若游龍――」

「洛神賦」とは、後漢末期の武将曹操(155~220年)の第三子・曹植(192~232年)が書いた詩歌である。羽生選手の演技にこの言葉を当てはめると、さしずめ次のような感じではないだろうか。