三重県東員町では、水谷町長が率先して官民連携案件に取り組んでいる。小さな自治体が50年後もそのままあり続けるためにやるべきことは何かを水谷俊郎町長に聞いた。(JBpress)
※本記事はPublicLab(パブラボ)に掲載された「50年後を見据え、挑戦繰り返す ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー」を再構成したものです。
水谷俊郎:三重県東員町長
聞き手 小田理恵子:株式会社Public dots & Company代表取締役
前編では、三重県東員町(とういんちょう)が2021年6〜7月に行った「磁気共鳴画像装置(MRI)搭載車両を使用した移動式脳ドックサービス」(スマート脳ドック)の実証実験について、詳しく伺いました。
MRI搭載車利用の脳ドックを実現した官民連携
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68840
後編では、同町がこれまで取り組んできた官民連携の事例や、民間企業と事業を進めるコツなどについて伺います。
官民連携、三つの事例
小田 スマート脳ドックの実証実験では、MRI搭載車両を利用することで、「遠方の病院に行かなくても短時間で脳ドックが受診できる」という新たな価値を町に生み出しました。他にも官民連携で、地域の課題解決や価値創出に取り組まれている事例があれば、ご紹介ください。
水谷町長 では三つ、お話しします。
一つ目は、福岡県の企業と連携して実証実験した件です。その企業は、輻射と放射の仕組みを利用した特殊な空調システムを持っています。そのシステムを使うと冷房や暖房が無風で行えるので、人の体に優しいのです。ですから、これを町の発達支援の療育施設に実験的に設置しました。4〜5年ほど利用していますが、施設の職員いわく、室内の環境は非常に良いとのことです。
現在、一つの中学校の移転整備が町内で議論されているので、この中学校にも同じ空調システムを導入できないかと考えています。
二つ目は、ハウスメーカーとの連携事例です。この企業とは、公園の有効活用と災害対策というテーマで実証実験を行おうとしています。
町役場の隣に約14.5ヘクタールの大きな公園があります。そこには年間17万〜18万人が訪れるのですが、店舗がありません。つまり維持管理費は掛かりますが、収益はないということです。
そこで収益性を高める施策として、ハウスメーカーのコンテナハウスを使ったカフェをオープンしようとしています。コンテナハウスの屋根には太陽光パネルがあり、蓄電池や「エコキュート」(空気中の熱を集めてお湯を沸かす電気給湯器)も備えています。
普段はカフェとして、公園に来ていただいた方にいろいろなサービスを提供しますが、災害時には食料などを供給できる一時避難場所になるのです。この実証実験がうまくいけば、次は公園内で宿泊施設を運営することも検討しています。宿泊施設であれば、災害時はすぐに避難用住宅として機能しますから。
三つ目は、官民連携というより産官学連携の事例です。東員町は行政区画の約3分の1が農地なのですが、そこで収穫される農産物の収入が少ないという課題があります。そこで農産物の高付加価値化を目指した取り組みを、生産者・企業・大学・行政が一緒になって進めています。
希少品種の大豆の生産から加工販売までを一体的に行い、6次産業化していこうというプロジェクトです(図)。東員町では、このように複数の分野で官民連携を進めています。