(北村 淳:軍事社会学者)
80年前の12月7日(米国時間)、日本海軍機動部隊によってアメリカ太平洋艦隊の本拠地であったパールハーバーが攻撃され、アメリカ太平洋艦隊は壊滅的打撃を受けた。
ただし、前進航空基地に航空機を運搬するため出動中だった航空母艦3隻は全て無傷であった。それ以上にアメリカにとって幸運だったのは、日本海軍による攻撃目標が艦隊自体に集中していたことであった。
すなわち日本軍が集中攻撃を加えたのは、真珠湾攻撃までいずれの海軍にとっても最強の戦力とされていた戦艦(8隻のうち4隻沈没、1隻座礁、3隻損傷)をはじめとする巡洋艦や駆逐艦、それに地上で待機していた航空機(347機が損失あるいは損傷)であった。一方、艦艇や航空機に対する補給や修理整備を実施する海軍施設や航空関連施設、燃料貯蔵施設、発電所などのロジスティクス(兵站)関連施設への攻撃は実施しなかったのである。
アメリカの南北戦争において、戦闘能力そのものでは南軍に対して劣勢であった北軍が勝利した最大の要因は、ロジスティクス分野において南軍を圧倒していたことだという。事実を肝に銘じているアメリカ軍には、伝統的に「プロはロジスティクスを語り、アマチュアは戦闘を語る」という戦略格言がある。真珠湾攻撃における日本海軍の「戦術的勝利、戦略的失敗」もその格言に1つの具体例を加えた形になっている。