(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)
あまりにも公約を簡単に投げ捨てすぎる
それにしても総裁・総理当選以降の岸田首相の発言を聞いていると、この人は何のために首相を目指したのか、根本的な疑念を覚える。
総裁選時の公約が次々投げ捨てられていくからだ。
「令和版 所得倍増計画」と銘打った格差の是正や「1億円の壁」と指摘されてきた金持ちへの優遇税制を是正する金融所得課税の見直しは、「目玉公約」だったはずだ。だがあっさりと投げ捨てられた。給与などに課せられる所得税は、収入が多いほど税率が高くなる累進課税になっている。課税所得が4000万円を超えると個人住民税を含む最高税率は55%になる。これに対して株式譲渡益など金融所得への課税は、所得税と住民税を合わせても一律20%となっている。つまり所得に占める金融所得の割合が高い富裕層ほど税率が低くなる傾向にある。その境界線が1億円と言われている。これが「1億円の壁」であり、格差是正には欠かせない改革が金融所得課税の見直しなのだ。
もちろんこれには、銀行業界や証券業界に反対が多い。現に、岸田首相の見直し方針を受け、株価は連日下がった。そこで見直しを止めたわけである。証券業界からは、「さすがに岸田首相は、意見をよく聞いてくれる」と馬鹿にしたような声が上がっていた。