(福島 香織:ジャーナリスト)
東京五輪も残すところ数日。番狂わせも多かったが日本が金メダルを多く獲得していることはやはり嬉しい。
8月4日現在、金メダル数が一番多いのは中国。来年(2022年)の北京冬季五輪への盛り上がりにつなげようと、2008年の北京夏季五輪を除いて史上最大規模の選手413人を送り込んだだけのことはある。14億人口から選び抜かれた中国選手の多くが挙国体制で育成され、その強さは素質や練習の積み重ねだけでなく、社会主義国家特有のプレッシャーによるところもあろう。勝っても負けても選手を讃える日本などとは違って、「とるべき金」を逃せば、罵詈雑言、非難中傷の嵐にさらされ、メンタルがズタボロにされる恐怖がある。そのことは2008年の北京夏季五輪を現場で記者として取材したときにも強く感じた。
「赤く」なった中国選手団
この東京五輪に参加している中国選手たちは2008年の北京夏季五輪の時以上に、さらに強く濃いナショナリズムの中で戦っている気がしたのは私だけではなかろう。中国はあのときよりも強大になったが、それ以上に「赤く」なった。
そう強く思ったのは、8月2日の自転車女子チームスプリントで優勝した中国の鮑珊菊(23)と鍾天使(30)の両選手が表彰式に立ったとき、毛沢東のバッジをつけていたことだ。
1990年代、毛沢東がファッションのモチーフや商標として取り入れられた時代があった。だがそれは2000年代後半になって毛沢東の商業化として批判され、禁じられるようになった。習近平政権になってからは毛沢東の神聖化はさらに進んでいる。とすると、彼女たちは本気で毛沢東を尊敬し、信仰のような気持ちで毛沢東バッジをつけていた、ということなのか?
この毛沢東バッジをつけての表彰式は、中国のネット上で「毛粉」と呼ばれる若い毛沢東ファンから大いに喝采を浴びた。だが、IOC(国際オリンピック委員会)から、政治宣伝活動を禁じる五輪憲章第50条に違反する可能性があるとして、調査を開始。