緩和縮小の可能性は低いが米国債の異変に要警戒

 ──アメリカでは不動産価格の値上がりが続いています。過熱感を抑えるためにテーパリングに踏み切ることはないでしょうか?

 エミンさん パウエル議長はゼロ金利政策と量的緩和政策を長期間続ける考えを強調しています。FRB自らの意思でテーパリングに向かうことはまずないでしょう。

 このまま不動産価格が上昇し続ければ住宅を買いたくても買えない人が増え、不満が噴出する可能性はあります。しかし、最近は若い世代も株式市場の上昇の恩恵を受けており、不動産価格の値上がりが直ちにテーパリングを促すことはないと思います。

 ──よほどのことがない限り、金融緩和はこの先も続くと。

 エミンさん それはFRBだけでなく、日銀もECB(欧州中央銀行)も同じです。一方で、中央銀行の方針にかかわらず、相場が金利を上げる展開も想定しておかなければなりません。

 現在、アメリカでは40年ぶりの水準で国債が売られています。今後も国債が大量に発行されると、債券マーケットが崩壊する可能性が浮上してきます。値下がりによって利回りが急騰すれば債券ならびに米ドルへの資金シフトが起こり、株式市場の下落要因になります。米国債市場の動向にも注目しておくべきでしょう。

「アルケゴスショック」が相場の過熱感を冷ますか

 ──3月に米国投資会社のアルケゴス・ キャピタル・マネジメントが破綻し、同社と取引していた野村證券などが大きな損失を被る「アルケゴスショック」がありました。過度にレバレッジを利かせた取引が問題になり、何らかのショックが起こる前兆ではないかと捉える向きもあります。エミンさんはどう見ていますか?

 エミンさん 事件の全容がまだ分かりませんが、証券会社のリスク管理は見直されることになるでしょう。少なくともアルケゴスとの取引で損失を出した野村證券やクレディ・スイスなどは、同じ失敗を繰り返すわけにはいきません。過剰なリスクテイクを伴う取引はクローズに向かうのが自然な流れです。この動きが多くの証券会社に波及すれば流動性の低下につながり、相場の過熱感を徐々に冷ましていくと思います。

 今回の事件をきっかけにアルケゴスと同じような会社の破綻が相次ぎ、大手金融機関の経営が危ぶまれる懸念もなくはありません。ただし、もしそのようなことが起きたとしても破綻に至ることはないでしょう。リーマン・ショックの教訓から、システミックに重要な金融機関には救済の手が差し伸べられるはずです。

 その意味では、今の金融機関には怖いものがありません。いざというときには助けてもらえると思っているから、いくらでもリスクを取れる。だからこそ今回のような事件が起きたとも考えられます。